日本を3度目のWBC優勝に導いた栗山英樹と、ドイツとスペインを破りサッカーW杯2大会連続ベスト16を成し遂げた森保一のチームマネジメントには、ビジネスにも通じる“共通点”があった。ここでは『森保一の決める技法 サッカー日本代表監督の仕事論』より一部抜粋。“カリスマ性”に頼らずチームを強くするチーム運営の極意に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
森保一と栗山英樹。競技は違えど共通する考え方
森保と栗山には共通点が多い。それを整理すると、次の3つになる。
まず、ひとつ目。2人とも監督という仕事を、あくまでもチームの中の役割のひとつととらえ、自らは、もっぱらマネジメントに専念していること。
森保は、自らの仕事を「監督係」という。謙遜して言っているのではないことは、次の発言からも窺うかがえる。
「チームとして目標を定め、結果を求めて進んでいく中で、監督だから偉いとか偉くなるとか、そういうことはあまり大事ではない。コーチを含めたスタッフ、選手全員がスペシャリストである以上、それぞれが自分たちの特性や強みを発揮し、チームのために何ができるか、を考えながら全力を尽くす。コーチの役割としては、(第一次政権においては)オープンプレーは横内さん、セットプレーの攻撃は上野(優作)さん、守備は齊藤(俊秀)さん、GKは下田(崇)さん……と、それぞれの責任者を決めていた。僕自身が中心となってチームとしての戦い方や指導方針を共有しつつ、コーチやスタッフには、各々が良さを発揮できる環境をつくっていくこと。それが監督の仕事だと考えています」
監督と選手は「上司」と「部下」ではなく、あくまでもフラットな関係だと森保は考えている。そこに役割の違いはあれど、貴賤や序列はないのだと。
監督係と聞いて、腰を抜かしそうになった指導者もいるのではないか。会社でも「係長」の肩書きは「部長」や「課長」より下で、ビジネスの世界では名刺に「係長」とあると軽んじられるのが常だ。
スポーツの世界において、「監督」という肩書きの響きは絶大である。南海ホークスとヤクルトスワローズでリーグ優勝5回、日本一3回を達成した野村克也は「男と生まれてなってみたいものは、オーケストラの指揮者と連合艦隊の司令長官、それとプロ野球の監督」とまで語っている。