二ノ宮知子による同名コミックを原作に据え、アニメ化、ドラマ化、映画化など、数々のメディアミックスが行われてきた人気作『のだめカンタービレ』。

 この9月、2006年の本放送から17年を経て、上野樹里×玉木宏出演のドラマ版『のだめカンタービレ』(フジテレビ系)が再放送された。SNSには「のだめ 再放送」が幾度もトレンド入りし、今でも全く色褪せない面白さに、視聴者は大いに沸いていた。

 ドラマ『のだめカンタービレ』は、熱烈なファンが多ければ多いほど難度が上がる漫画実写化の最たる成功例であり、トレンディドラマや恋愛ドラマで一時代を築き上げたフジテレビの“月9”ドラマに、これまでと異なる文脈を持ち込んだ代表作とも言えるだろう。なぜ『のだめ』は、時代を越え、こうも愛されるのか。

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ドラマ『のだめカンタービレ』の主演を務めた上野樹里と玉木宏 ©️時事通信社

「千秋先輩かっこよすぎる」

 今回の再放送でのSNSの声を見ると、目立つのはまず千秋真一を演じた玉木宏に見惚れる視聴者の多さ。以下のようなつぶやきが相当な熱量でつぶやかれているのだ。

「千秋先輩、かっこよすぎる」「玉木宏当時26歳と思えない、えぐい色気」「千秋様、好きすぎる」「千秋先輩に恋しない女性はいない」「白目でもかっこいい玉木宏」「千秋先輩の玉木宏は本当に王子様」……。

 また、永山瑛太、水川あさみ、小出恵介、竹中直人に加え、向井理、紗栄子、吉瀬美智子、近藤公園、山中崇、波岡一喜、小林きな子など、改めて観ると「この人も出てたの!?」という驚きのキャストに沸く声も多数みられた。

 しかし、なんと言っても、本作を不朽の名作に成しえた最大の要素は、落ちこぼれながら圧倒的なピアノの才能を持つ主人公の「のだめ」こと野田恵の“天才性”に説得力を持たせた上野樹里という俳優の存在だったろう。

上野樹里は当時20歳でのだめを演じた ©️文藝春秋

ゴミだらけの部屋に住み、風呂にも入らないヒロイン

 ゴミだらけの汚部屋に住み、風呂にも入らない、ズボラで不潔でダメダメなのだめは、「妖精系・珍獣系ヒロイン」とでも呼べるのだろうか。東京のオシャレでリッチな部屋に住む人々を多数描いてきた“月9”の流れにあるまじき彼女の姿に、視聴者は圧倒された。のだめは、多くのドラマが女性主人公に背負わせてきた「女性性」の呪縛から解放されたかのような軽やかさと自由さ、媚びのなさと稀有なユーモアを感じさせた。とにかく新鮮だったのだ。

 それでいて、のだめの音楽の才能は、圧倒的だ。なにしろ曲を一度聴けば弾けてしまう天才的な音感を持ちながら、楽譜を読むのが大の苦手で、作曲家の意図を無視した奔放な演奏をしてしまう。そうした得手不得手の大きなデコボコ具合や、集中するとどんどん口が尖ってくる変なクセ。そして、「カプリチオーソ(気ままに気まぐれに)」「カンタービレ(歌うように)」という音楽用語があるように、演奏が楽しくて仕方ないという表情と柔らかく伸びやかな動きは、のだめが持つ音楽の申し子としての才能が全身から溢れ出ているようだった。