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のだめの自由と変態性を象徴する「ぎゃぼー!」「ぷぎゃー!」

 さらに、実写化する上で解釈が非常に難しいと思われたのが、のだめの自由かつ変態性を象徴する「ぎゃぼー!」「ぷぎゃー!」といった奇声や叫び声の数々だった。しかし、これを奇妙な効果音などで処理することなく、上野の発声によって提示したことで、視聴者が原作から想像できなかった音声が、生身の人間の体温を伴って「正解」として提示された。上野の演じるのだめは、あまりにのだめすぎて、しばらくは「上野樹里=のだめ」のように、完全に同一視してしまった人までいたほどだ。

上野樹里 ©️文藝春秋

 また、本作が異質だったのは、作中で「恋愛」が描かれてはいるものの、それが主題ではないことだ。

 千秋はのだめの部屋を代わりに掃除したり、のだめにせがまれて料理を作ってあげたりする。時には風呂に何日も入らず異臭を放つのだめを無理やり風呂に入らせ、髪を洗ってあげることもあった。単なる王子様ではなくてまるで保護者、もっと言えば「飼い主」状態だ。普段は「オレ様」でツンツンとして、怒っているような状態の端正な顔立ちの男性が、一人の相手だけには振り回され、世話を焼き、なんだかんだデレてしまうという、このありがたさ!

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恋愛を超えた信頼関係、音楽を介してつながる友情

 何より尊いのは、千秋がのだめに強く惹かれる理由が、可愛さ・素直さ・女らしさなんかじゃなく、音楽を愛する人ゆえの、のだめの持つ音楽の「才能」への憧れや尊敬だという点だ。

 ピアノやバイオリンの腕は一流で、指揮者を目指している「音楽エリート」の千秋は過去のトラウマから飛行機に乗れず、海外留学に行けないという悩みを抱えていた。そんな千秋のトラウマを解放し、世界を広げたのがのだめだった。

玉木宏 ©文藝春秋

 一方、のだめは、幼少期に通っていたピアノ教室の厳しい指導がトラウマになり、音大に入るまでは自己流でピアノを弾き、幼稚園の先生を目指していた。しかし、周囲から専門的な音楽の道へ進むように促されたことで、「なんでそこまでして勉強しなきゃいけないんですか? ……自由に楽しくピアノを弾いて何が悪いんですか」と苦悩する。しかし、そんなのだめの向上心を目覚めさせたのは、世界的な指揮者になるという夢を持った千秋に追いつきたいという思いだった。

 いつも周りを考えず暴走するのだめに「ちゃんと合わせてやるから、オレの音を聴け!」と言い、人の音楽に合わせることを意識させ、気づきを与えたのも、千秋だった。

 のだめにとって千秋が「王子様」なら、千秋にとってのだめは「ヒーロー」だ。こうした恋愛を超えた信頼関係、才能・音楽を介してつながる友情が“月9”で、もっと言えば連続ドラマで描かれたことは、あまりに画期的だった。