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事故が起きた時に聞こえた、2回目の衝撃音の正体は…

 事故時の状況をもう一度、確認してみよう。

 概略は以下の通りだ。

 生存者の証言によると、衝撃音は右舷前方から。それも2度。衝撃の後、船体は衝撃を受けた側の右に傾き、そのまま転覆した。1~2分程度という、極めて短い時間だった。そしてわずか40分後には、水深5800メートルとされる海域で沈没してしまった。事故が起きた時刻、海況は穏やかになりつつあり、いつ漁を再開しても不思議ではない状態だった。乗組員からすれば、少なくとも135トン、全長48メートルという船体をひっくり返すような波や風ではなかった。

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 それなのに、第58寿和丸は突如として転覆し、沈んだのだ。

 事故後、国の聴取に対し豊田吉昭は次のように語っている。記録の作成者は事故調査を担う国土交通省所管の運輸安全委員会だ。

「2回目の衝撃は、『ドスッ』という音と『バキッ』という音が重なったような音で、船体がどのように振動したかは覚えていませんが、反対舷に戻ることなく、右舷への傾きが徐々に増したので、転覆の危険を感じ、ベッドから出て、一目散に(略)船橋甲板左舷側の出入口を目指しました。確認したわけではありませんが、『バキッ』という音は船体が折れるようなものではなく、甲板上の構造物が破損するような音でした」

「船体に傷が入っているんじゃないかって」…

 豊田によると、最初は「ドスーン」とした衝撃で、船は右舷側に10度くらい傾いた。その7~8秒後、2度目の衝撃。最初の衝撃よりも強く、「構造物が破損するような音」だった。波で10度くらい傾いたのであれば、船体の傾きは復原する。しかし、この時は違った。

 聞いたことのない破壊音の後、船体の傾斜がさらに増したと言っている。

 豊田は、酢屋商店の顧問弁護士・村上誠の聴き取りに対しても衝突時の様子を語っている。やりとりは録音され、その書き起こしが残っていた。読みやすく言葉を補うなどしたうえで、2人のやりとりを再現しよう。より一層、事故時の様子が分かる。

村上 2回目の衝撃は何だったと思いますか?

豊田 1回だけだったら波かなって思えるんですけど……。数秒後に起きた2度目の衝撃の後、デッキ上からまだ浸水してないときに、船体が傾斜し始めた。ひっくり返るまでの早さ、それからひっくり返った後の大量の油、全部を考慮すると、波だけでこういうふうになるのか、と。この程度の波で事故になるなら、毎日船がひっくり返ってなきゃおかしい。

村上 そうなっちゃう?

豊田 うん。(略)船体に傷が入っているんじゃないかって。

村上 そうとしか思えない?