徹底したリンパ節郭清
――婦人科領域では、なぜがんへの適応が遅れているのでしょうか。
米国で行われた大腸がんの腹腔鏡手術で、手術器具を刺した穴の周りに再発がよく起こったんです。術中にがん細胞が器具などに付着したのが原因ですが、きちんと手順を踏めば防止できます。
しかし、当時はそれで、がんの腹腔鏡手術は危険だというイメージができあがってしまったんです。
また、日本で婦人科がんの手術といえば、開腹手術による広汎子宮全摘出術が伝統芸のようになっていて、婦人科がんの学会のみなさんは腹腔鏡手術などの新しい技術の導入にはあまり興味がなかったんです。そのため、良性疾患の腹腔鏡手術は盛んですが、婦人科がんの腹腔鏡手術については、全体的な技術力が上がらず、体系的な教育システムも、なかなかできませんでした。それで欧米や近隣のアジアに比べて遅れを取ってしまったんです。
――腹腔鏡手術は開腹手術に比べて、根治性や安全性の面で懸念を持っている婦人科医もいると思いますが、実際はいかがでしょうか。
腹腔鏡手術を手がけて18年で、子宮・卵巣がんの手術を1000例以上行ってきました。腹腔鏡手術だと十分なリンパ節郭清ができないのではという批判もありますが、そんなことはありません。それは成績にも表れており、子宮体がんⅢ期の5年生存率は全国平均で50〜60%ですが、当センターは90%です。これは、徹底したリンパ節郭清ができているからだと考えています。
また、開腹手術に比べたら出血量も非常に少なく、だいたい50〜100ccで、輸血はほとんど要りません。術後の回復も早く、当院では腹腔鏡による広汎子宮全摘出術の場合、9〜12日程度の入院で開腹手術の半分です。術後の癒着性腸閉塞もほとんどなくなり、なにより傷が小さいので美容的にも優れています。
保険が使えない手術が多いので、患者さんの経済的負担が重いのが難点ですが、私は長期成績も保証された、とてもいい手術だと確信しています。
腹腔鏡手術の安全な普及を
――しかし、いい手術だとしても、安藤先生しかできない特殊な手術になってしまうと、一部の患者さんしかメリットを享受できないことになりませんか?
その通りです。ですから、この手術ができる医師を育てることも、大きな課題だと思っています。実は、年4回、当センターで子宮体がんの腹腔鏡手術セミナーを開いているのですが、募集すると30分で定員いっぱいになります。それだけ、やってみたいと思う婦人科医も多いのです。
当センターの婦人科にも、たくさんの医師が研修に来ました。その中には、各地の病院に戻って、婦人科がんの腹腔鏡手術を始めた方が何人もおられます。また、現在も、当センターには18人の婦人科医師が所属し、そのうちの8人が日本産科婦人科内視鏡学会の技術認定医を取得しています。
婦人科がんの腹腔鏡手術を安全に普及させていくためにも、手術の道筋の中で危ないステップをみんなで共有する必要があります。そのためにも、学会が主導して教育システムをきちんとつくっていかなければなりません。