胃がんや大腸がんでは主流になりつつある腹腔鏡手術だが、実は婦人科領域では、良性疾患(子宮筋腫、子宮内膜症など)には広く用いられているものの、婦人科がん(子宮体がん、子宮頸がんなど)への適応は諸外国に比べ遅れている。なぜそのような状況になっているのか。日本でいち早く婦人科がんの腹腔鏡手術を開始し、現在も第一人者として活躍している安藤医師に、現状と課題について語ってもらった。
安藤正明(倉敷成人病センター院長)
1980年、自治医科大学卒業。1986年、倉敷成人病センター産婦人科入局。2001年、同センター産婦人科部長。2015年9月、院長に就任。
――安藤先生が、婦人科がんの腹腔鏡手術を始めたきっかけを教えてください。
実は私も、1989年から10年ぐらいは、開腹で大きな手術を手がけていたんです。しかし、術後の回復が悪くて悩んでいました。術後、患者さんは3週間寝たきり状態で、癒着性腸閉塞もよく起こしていました。
そんなときに、フランスで手術を研究する機会があったんです。すでにフランスでは婦人科がんにも腹腔鏡手術を導入しており、患者さんが手術直後にもかかわらず、すごくお元気でした。それで私も、子宮頸がん、子宮体がんの腹腔鏡手術に取り組み始めました。1998年のことです。
自分でやってみたら、術後の回復具合が全然違いました。それで、もう開腹手術には戻れなくなってしまったんです。
――しかし、保険が適用できず、ずっと自費診療で行ってきたそうですね。
はい、腹腔鏡手術がいかに優れているかを学会で発表したら、「保険を適用するのは問題ではないですか?」と指摘されました。当時は保険の審査が厳しくなかったので、当初は通常の手術として申請していたのですが、やはり問題だということになり、それ以降、保険が通るまで全部自費診療として行ってきました。
手術の費用は約160万円で、そのうち35〜40万円は腹腔鏡の使い捨ての機材にかかるコストです。2014年4月から、ようやく子宮体がんの腹腔鏡手術に限り、保険適用となりました。しかし、IA期までの早期がんだけで、それ以上のステージだと保険が適用できません。子宮体がんは骨盤内と傍大動脈のリンパ節切除が必要となることが多いのですが、それをすると自費診療になります。私としては、そうした制限なく保険を使えるようにしてほしいのですが……。