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負けを覚悟した藤井聡太はガックリと…その後の逆転劇を棋士は誰でも経験している「血が逆流し、全身から汗が吹き出す」

負けを覚悟した藤井聡太はガックリと…その後の逆転劇を棋士は誰でも経験している「血が逆流し、全身から汗が吹き出す」

プロが読み解く王座戦五番勝負 #3-2

2023/10/10
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将棋自体は永瀬が藤井を圧倒していた

 後日だが、この対局を「駒テラス西参道」の大盤解説会で解説した高野智史六段にも話を聞いてみた。

「永瀬さんには月に2、3回教わっています。解説会でも話したのですが、本局直前の研究会で雁木を指されていたり、雁木を得意とする三段を集めて研究会をするなど、ずっと雁木を研究していました。経験が少ない雁木を見事に指しこなしていて、すごいなあと思っていました。

 最後は、私も▲4三銀には気づいておらず、△3一歩と打ったらどうするんでしょうかと解説していました。解説会に来られた方は、永瀬ファンと藤井ファン半々くらいでしたが、△4一飛でお客さんからも悲鳴が上がりました。私は局面の進行を解説するのでいっぱいいっぱいで、終わるまで▲4三銀に気が付きませんでした」

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 結末についてどう見ますかと質問すると、しばらくの沈黙の後、続けた。

「はた目から見ると、良い将棋を落としてつらいですが、将棋自体は永瀬さんが藤井さんを圧倒していました。流れは悪いですが内容は良いので、永瀬さんも手応えを感じていたと思います」

 そして最後に、「永瀬さんはタイトル戦をたくさん経験されていますし、先手番ですし、次に向けて切り替えていると思います」と答えた。

 週が明け10月2日、永瀬も私も対局で将棋会館にいた。対局室は別だが、ロビーで何度もすれ違った。永瀬はコーヒーを入れ、ゼリー飲料を注文していた。いつもとまったく変わらない。そしてその日の伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦、これまで4戦全敗だった伊藤匠七段に勝った。

 実は、名古屋の対局が終わってからずっと、私はまったく文章が書けなかった。だが永瀬の変わらない姿を見てようやく向き合えた。さあ第4局だ。

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