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ジャニー喜多川氏が「故人」であることで思考停止に

 フジテレビでは社員、元社員77人に対する社内調査を実施した。調査は旧ジャニーズ事務所の社名変更前に行ったという。フジテレビの検証で印象に残ったのは、ジャニー喜多川氏が故人であるという点に焦点を当てていたことだった。

ジャニー喜多川氏 ©Getty

 今年になって、3月にイギリスBBCが報道し、4月に元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が記者会見で性被害を訴えたが、フジテレビはこれらの動きを報じず、4月23日、旧ジャニーズ事務所が所属タレントなどからの聞き取り調査を始めた段階から報道したことを振り返り、

「BBCのドキュメンタリーを見た後も、取り上げるべきという意識が生まれなかったのは『スキャンダル』の流れと受け止めていたことに尽きる。裏どりをどの程度できるのか懸念し、積極的に扱うべきだとは思えなかった。慎重にならざるをえなかった」(元報道局幹部)

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「カウアン氏の主張に対して当事者は亡くなっていて反論が出来ない。この件に限らず、一方の話だけを元に報道することは避けるべきで、その意味でもジャニーズ事務所側がこの件で動き始めたのがきっかけになった」(報道幹部)

「事実かどうか裏取りをできないうちは報道できない」というのは“報道のセオリー”だ。しかも当事者が亡くなっていることで厳密な裏取りは困難だ。それゆえ、これ以上は何もできないと思考停止していたことが、こうした聞き取り調査の結果からわかる。

 スタジオでは、渡邉奈都子報道局長がコメントした。「フジテレビが今年4月まで性加害問題を報道してこなかった」という質問に対して、こう答えた。

「まず性加害、特に男性に対する性加害について、私たち報道担当者の意識、認識が著しく低かったということが今回の調査で改めてわかりました。通常のニュースで扱う案件ではなく、芸能ゴシップですとか、スキャンダルである、そういう古い価値観が根底にありまして、報道として取り上げるべきか否かという議論にすら至っていなかったということです。

 しかも未成年に対する性加害という重大な問題、人権問題に対する私たちの感度の鈍さは、被害にあわれた方々の心情を考えますと、報道に携わる者として深く反省しております」

 渡邉報道局長が「感度の鈍さ」と表現したことに注目したい。従来の“報道のセオリー”にこだわりすぎることで重要な見落としをすることは、ネット時代の既存メディア全般に共通する課題でもある。

番組制作のトップ3が一堂に会してコメント

フジテレビ「週刊フジテレビ批評 特別版」10月21日より

 フジテレビの検証番組で特筆すべきといえるのは、報道局長、大野貢・情報制作局長、立松嗣章・編成制作局長という番組制作のトップ3人が一堂に会してコメントしたことだった。フジテレビはどう変わるべきなのか。現場からの声をまとめると「報道機関」としての側面をもっと明確に打ち出すことだという意見で一致していた。

「協力企業に配慮したり便宜を図ることは、通常の商取引の範囲内で認められるという視点でいうと、事務所との関係を全て、圧力や忖度と表現されることには違和感がある。ただし、テレビ局の場合は報道機関としての役割を担っている以上、ニュースの対象となる事務所やタレントの言動についての扱いは、どこかで必ず一線を引く必要があるのではないか」(情報制作局幹部)

「どんな対象であれ、取材すべきはしっかり取材し、報道すべきはきっちり報道していく。この当たり前の基本を改めて徹底してまいりたいと思います。そしてたえず、今この瞬間の報道姿勢は本当に正しいのか、本当に間違っていないのか、自問自答を重ねて日々の検証を怠らないようにしてまいりたいと思います」(渡邉奈都子報道局長)

 筆者としては、本格的な検証番組の放送に至るまでの遅れが気になったが、会社のそれぞれの責任者が顔を出して決意表明した姿勢は評価できると感じた。