1968年(100分)/東宝/2750円(税込)

 いよいよ来る十一月二十七日、脚本家・橋本忍の生涯を追った評伝が発売になる。

 そんなタイミングで、東宝が期せずして小林桂樹主演映画を立て続けにDVD化、その中には橋本忍脚本作品が二本あった。一つは、本連載でも何度か紹介したミステリーの傑作『白と黒』である。

 そしてもう一本が、今回取り上げる『首』だ。

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 戦時中に実際に起きた事件を元に、主人公の弁護士の正木を小林が演じている。

 物語は、茨城の小さな炭鉱の従業員が花札の違法賭博容疑で警察に連行されるところから始まる。従業員は警察の取り調べ中に死亡、脳溢血と診断された。同じ頃に連行されていた他の従業員が警察から拷問を受けていたことを知った炭鉱経営者(南風洋子)は、警官の暴行によって死んだのではないかと疑う。

 そして、伝手を頼りに、正木に調査を依頼したのだった。当初、正木は通り一遍の調査で終えるつもりだった。

 序盤は、正木が事件にのめり込んでいく様が描かれる。ここでは森谷司郎の演出が冴える。検察官、警官、医師らの顔が白黒映像に不気味に冷たく浮かび、彼らの非人間性が強烈に映し出されていた。

 正木は正義の怒りに駆られ、真実追求にのめり込んでいくのだが、やがてそれは狂気ともいえる行動へと向かう。序盤で相手の非人間性が強調されたことで、その行動に説得力はもたらされていた。

 といっても、終盤近くになるまでは森谷のクールな演出や小林の怪演には目を見張るものはあっても、「橋本脚本の力」を感じられる場面は少ない。聞き取り、交渉、推理ばかりなので、展開そのものは劇的な盛り上がりはないまま、淡々と進んでいるのだ。

 だが、終盤になると一気に橋本の凄みが伝わる展開に。

 正木は再検死を実施するため、被害者の墓を掘り起こして首を切り離そうと考えていた。墳墓の発掘は懲役刑に処されるし、遺体損壊はさらに罪が重なる。正木に尾行がついている危険性もある。失敗すれば、全てを失うのだ。だが、正木は引かなかった。

 墓地へ向かった正木は、炭鉱夫たちとともに秘密裏のミッションに取り掛かる。だが、そこには彼らを疑う駐在の目が光っていた。遺体の掘り起こし、首の切断、汽車での運搬――。少しでも見つかったらゲームオーバーというギリギリの状況が、強烈な緊迫感とともに描かれていく。

 一見すると反権力の社会派映画の感があるが、橋本の手にかかれば、狂気に彩られたサスペンス映画と化すのだ。

 そんなエンターテイナーとしての橋本の姿を、新刊で追った。詳細は、また改めて。