先客の四年生が一本吸って去っていき、岳人一人になる。壁にもたれてしゃがみ込み、校舎の間にのぞく夜空を見上げた。星が二つだけ輝いている。
普通の高校に、行きたかった。本物の青空がある高校に。
ひと口吸った煙を、ため息にして吐き出す。それはやはり、雲のように白かった。
闇の中から、音もなく藤竹が現れた。隣へ来て言う。
「たばこ、今度買って返しますから」
「いいよ、別に」
「全日制の高校では、なかなかやりにくい実験でした」
「だろうね」灰を地面に落とし、口の端を歪める。「でもさ、あれのどこが“青空”なんだよ。ショボすぎる」
「空が青い理由、少しはわかりましたか」
「あんまり」
「まあ、自動的にはわかりませんよ」
藤竹はこちらに顔を向けずに、「柳田君」と続けた。
「君は、学校を辞めてはいけない。スタートですよ。ここからが」
何も答えずにもうひと口吸ってから、言った。
「あんた、さっき三浦に、『この学校には、何だってある』って言ったよな」
「言いました。教室、図書室、体育館。使える設備は全日制と同じです。文化祭も体育祭も、部活だってある」
「でもさ――」
青空は、ねえよ。
そう口にする代わりに、視線を上にやった。たばこの先から立ちのぼる煙が、そばに立っている外灯の光に透けて、うっすら青く見えた。
「俺がやりたい部活がねーよ」
「私もなんです」藤竹が真顔で言う。「だから、作ろうと思って。科学部」
「科学部?」露骨に顔をしかめてみせる。「うわ、だりい部活」
「一緒にやりませんか」
「冗談」鼻で笑った。
「知ってますか」藤竹が眼鏡の奥の目を光らせる。「火星の夕焼けは、青いんですよ」
「え、マジ?」思わず反応してしまった。
藤竹が滔々と理由を語り出す。半分もわからないその説明を聞いているうちに、たばこはフィルターのところまで燃え尽きていた。
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