このライン作業を命じられて、早一週間。配置換えの理由はもちろん、角刈りとの一件だ。向こうにも非があったことが認められ、懲戒処分などは免れた。工場内にある休憩室も収集班とは別なので、角刈りと顔を合わせることもない。
あの夜、物理準備室で一方的にわめき散らしたあと、藤竹の顔も見ずに部屋を出てきた。以来、学校へは一度も行っていない。学校も仕事も免許も、もうどうでもよかった。
失ったのは、何年だろう。十年――いや、もっとか。
本当なら、失わなくてよかった年月だ。両親がもっと真剣に向き合ってくれていたら。誰か一人でも教師が気づいてくれていたら。まともな中学生活を送り、普通に高校を出て、今頃は大学にだって通っていたかもしれない。
無心に手を動かそうとしても、恨みが絶え間なく胸に湧き上がり、悔しさに叫び出しそうになる。
怒りの矛先は、藤竹にも向いていた。当せんした宝くじを知らずに捨ててしまった人間に、あれは実は大当たりだったのだとわざわざ告げる。あいつのやったことは、それと同じだ。
そんな真似をして、俺が喜ぶと思ったのか。前向きになれるとでも思ったのか。こんな苦しい思いをするぐらいなら、知らないままでよかった――。
昼休みに入り、食事もとらずに敷地の隅でたばこをくゆらせていると、作業着のポケットでスマホが震えた。また藤竹からの着信だ。
三日ほど前から、今の時間と夜八時に必ずかけてくるのだが、ずっと無視している。とはいえあの執念深い男のことだ。放っておけばこれからも毎日かけてくるだろう。
仕方なく〈応答〉をタップして、いきなり言った。
「しつけーよ」
「よかった。間に合いました」藤竹の声は妙に明るい。
「ああ?」
「今日の四限目、出ませんか。『地学基礎』です」
「出ねえ」即座に吐き捨てた。「退学の手続きにも行かねえ。授業料払わなかったら、勝手にクビになるんだろ。それでいいから、もう電話もかけてくんな。うぜえんだよ毎日」