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「ディスレクシア……」初めて聞く言葉だった。

「読み書きに困難がある学習障害です。音と文字を結びつけて脳で処理する力が弱かったり、文字の形をうまく認識できなかったりするせいで、文章をスムーズに読めない。当然、書くことも苦手になる」

「俺が、そうだってのかよ」

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「おそらく。ディスレクシアの中には、そういう特別なフォントに変えるだけで、劇的に読めるようになる人がいるそうですから」

 そんなことで。そんな簡単なことで――。

「この学習障害の存在は、最近まであまり広く認知されていませんでした。親や教師にも気づかれず、本人もそうだと知らないまま大人になるケースも多い。理由の一つは、ディスレクシアの多くは文字情報のデコーディングが不得手なだけで、情報の中身はちゃんと理解できるからです。つまり、知能には問題がない」

「――バカじゃねえってことか、俺も」

「バカどころか、聡明な人だと私は思いますよ。いくら練習しても歌が下手な人、球技がだめな人がいるように、単に君は読むことや書くことが――」

 藤竹の言葉は、耳を素通りした。体の芯が(しび)れるような悔しさとやるせなさが、行き場を求めて暴れ出す。

「不良品じゃねえか!」結局それは、口から勢いよくあふれ出た。「あいつの言ったとおり、やっぱり不良品じゃねえかよ!」

 藤竹が、「柳田君」と言った気がした。目の前がぼやけてきたのは、涙のせいか。小学三年生に戻ったのか、俺は。

「でも――」震える声が止まらない。「俺は、バカじゃねえ。怠けてたわけでもねえ。それなのにあいつら、笑いやがって。よってたかって、バカにしやがって。俺は――」

 うなだれて両の拳を握りしめ、嗚咽(おえつ)した。 

 *

「ちょっとお兄ちゃん」

 ベルトコンベアの下流側にいるパートの女から、とげのある声が飛んできた。

「またボーッとして。さっきから何回言わせんの? こっちが追っつかないじゃない」

「――ああ」

 我に返り、次々流れてくるペットボトルの中から一つつかんでキャップを外す。キャップやラベルがついたままであれば取り除き、汚れのひどいものははじく。減容機で圧縮処理をする前の選別作業だ。