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「四限目だけでも来ないかと思って。話したいことがあるんですよ」

「退学届のこと?」

「それも含めて、です」

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 まだ頭が回らず、「行けたら行くよ」とだけ答えて、通話を終えた。

 体を起こし、たばこに火をつける。最後の一本だった。とりあえずこれだけは買いに行かなければならない。スマホと財布だけ持って、部屋を出た。

 大久保通りのコンビニでたばこを仕入れたあと、アパートには戻らずにぶらぶらと駅のほうへ歩く。何も食べていないことに気づいたからだが、立ち並ぶチェーンの飲食店を見ても食欲は湧いてこない。

 それよりも、藤竹が言った「話したいこと」の中身が気になり出していた。山手線の高架をくぐり、結局そのまま学校に向かった。

 四限目が終わるのを中庭で待ち、物理準備室を訪ねる。途中、廊下の窓から、サッカー部の連中がナイター照明のついたグラウンドに出ていくのが見えた。定時制にも一応部活動があって、九時から十時までの一時間、活動が許されている。

 部屋の前まで着くと、ちょうど授業を終えて戻ってきた藤竹に中へ招き入れられた。奥の机には、昨夜も見た分厚い洋書が開いてある。

 それを片付けようと藤竹が手に取ったとき、表紙に地球や土星の写真が見えた。天体が並ぶその構図に、幼い頃の記憶が呼び起こされる。

「それ、何の本?」つい訊いてしまった。

「比較惑星学の教科書ですよ。どうしてですか」

「いや」つっけんどんに答える。「ちっちゃい頃、似た表紙の図鑑を持ってたなと思って。『地球と宇宙』とか、そういうの」

「そういう分野が好きだったんですか」

「覚えてねーよ、んなこと。ただ、空はなんで青いのかとか、雲はどうして白いのかとか、虹はなんで七色なのかとか、母親にしつこく訊いてた子どもでさ。うちの母親、そういうの全然答えらんねーから、その図鑑を買ってきたわけよ」

 本当はよく覚えている。持っている中で一番好きな図鑑だった。説明書きは結局読めずじまいだったが、美しい写真やわくわくするようなイラストをいつまでも飽かずに眺めていた。