「それでも二十歳になって、この高校へ来た。勉強するのが嫌というわけではないんじゃないですか」
「あんたさ」鼻で笑った。「やっぱ定時制の教師なんか向いてないんじゃね? こんなとこへ来るやつらは、お利口に勉強しに来てるんじゃねんだよ。高卒の学歴ぐらいなきゃやべえってことがわかって、仕方なく四年間椅子に座りに来てるだけなんだよ」
「君もそうなんですか」
「俺は――」なんでこいつに話す必要がある。つい藤竹のペースに乗せられていたことに気づき、いらだちが増した。「あんたには関係ねえ。それに、もう辞めるって言ってんだろ」
藤竹はまた観察するような目を向けてきた。やがて組んでいた腕をほどき、「わかりました」と淡白に告げる。「退学の手続きについては、明日にでも確認してみます」
*
仕事を終えて休憩室に戻り、奥に並んだロッカーに向かう。
続いて入ってきた三人の同僚は、疲れた疲れたと口々に言いながら、真ん中のテーブルを囲んでパイプ椅子に腰を下ろした。
会社があるのは北区の新河岸川べり。収集車の駐車場と廃棄物の保管庫、中間処理の工場などがあるので、立地はこういう場所になる。働き始めたばかりの頃は、敷地に漂う饐えた臭いに辟易したが、もうすっかり慣れて何も感じなくなった。
ここを五時に出て赤羽駅からJRに乗れば、五時四十五分から始まる一限目にぎりぎり間に合う。終業時刻は四時五十分なので、以前は荷物だけ引っつかんで飛び出ていた。
今はもう急ぐつもりもないが、同僚たちとここで無駄話をしていく気もなかった。こいつらはすぐに勘違いをする。どこの職場でもそうだった。たまたま同じところで働いているというだけなのに、気の合う仲間だと思い込むのだ。
そして、大して親しくもなっていないうちに、ずかずかと土足で踏み込んでくる。生まれはどこだ? 家族の構成は? 学校はどこを出た? こっちは友だちを作りに来てるんじゃない。金さえもらえりゃそれでいいんだ。