東新宿という場所柄もあってか、外国にルーツを持つ生徒は他にも数名いる。何人かは来日してまだ日が浅いようで、日本語が不自由だ。ママはそんな彼らを気遣い、頼まれもしないのによく世話を焼いている。
岳人と同じく最後列を指定席にしているのは、素行不良で全日制の高校をつまみ出された生徒たちだ。カラフルな髪色にごついアクセサリーなど、見た目は派手だが授業中は意外とおとなしい。漫画や動画を見ているか、そうでなければ机に突っ伏して眠っているからだ。立ち歩いて授業を妨害していた連中はだんだん学校に来なくなり、知らないうちに辞めていった。
数は決して少なくないのに、教室にいるのかいないのかわからないような生徒たちが、元不登校組。岳人などにはまず近づかず、服装も地味で、年齢より幼く見える。小中学校でいじめに遭ったり、集団生活に馴染めなかったりした者がほとんどらしい。オタクが多いのか、二、三人でかたまってアニメの話をよくしている。
そんな調子だから、クラスとしてのまとまりはまったくない。岳人を含めほとんどの生徒が、自分のことで精いっぱい、あるいは、自分と世界の違う者たちとは関わりたくないという空気を発している。
岳人の隣でスマホをにらみ、長いネイルの指を猛スピードで動かしていた麻衣が、突然それを耳に当てた。
「あ、マサオちゃん?」当たり前のように電話に出ると、甘えた声とヒールの音を響かせながら廊下に出ていく。「ライン見てくれた? うん、そう。そろそろ会いたいなーと思って」
麻衣は現役のキャバクラ嬢だ。この時間帯は、彼女が昼間に送った営業メッセージを見て、仕事終わりの客がよく電話をかけてくる。この様子だと、今夜も三限目以降はパスして歌舞伎町の店に出るつもりだろう。
藤竹は、何事もなかったかのように生徒たちを見回し、「そろそろいいですか」と言った。プリントを集め、その場で答案の出来をざっと確認してから、問題の解説を始める。それが藤竹の授業のやり方だった。