「おっせえよ、ガッくん」三浦はおどけて言った。「遅刻ばっかしてると、退学だよ」
「仕事が長引いたんだって」半分は本当だが、半分は嘘だった。仕事帰りにゲームセンターに寄っていたのだ。二本目のたばこに火をつけながら、彼らのそばまで行く。
「なあガッくん、この人誰?」坊主頭を赤く染めた朴が、藤竹を指差して訊ねる。
「うちの担任」先月この掃き溜めに赴任してきた、運の悪い男だ。
「え、佐藤ちゃんは?」佐藤というのは、昨年度――岳人たちが一年生のときの担任だった。ここの定時制では原則、担任は四年間の持ち上がり制になっている。
「病気だってよ」噂では、メンタルの不調で休職したらしい。「お前らのせいだな」
「いやいや、そりゃないっしょ」三浦がにやける。「俺ら、おとなしくしてたっしょ」
二人とも確かに暴れたりはしていないが、まともに授業を受けていたわけでもない。仲間と連れ立って校舎をぶらついたり、中庭でほうきをバットに野球をしたりしていただけだ。
「君たちは、ここの生徒だったんですか」藤竹が三浦たちに言う。
「そ。だから部外者じゃねーの。OBだよ、OB」
「バーカ。OBってのは、ちゃんと卒業したやつのことをいうんだよ」岳人は鼻息を漏らし、二人の顔を交互に見る。「で、何? 俺に用なんだろ?」
「何、じゃねーって。こないだの話だよ」
「ああ――」もちろん最初からわかっていたが、曖昧に応じた。
三浦はポケットから小さく折り畳んだ紙切れを取り出し、岳人の手に握らせてくる。
「だいたいこんな感じになってっから。よろしく」
さすがに藤竹の前で開くわけにはいかないので、そのまま作業着の胸ポケットにねじ込む。それを承諾のしるしと受け取ったのか、三浦が親指を立てた。
ハンドルを握った三浦は、「また電話するわ」と言い残し、原付を発進させる。去り際に朴がこちらを振り返り、「アンニョン」と右手を上げた。
二人が校門のほうへ消えるのを見届けて、岳人も踵を返した。後ろから藤竹が「教室に行くんじゃないんですか」と言ってきたが、無視して中庭に向かう。四限目が始まるまで、そこで時間をつぶすつもりだった。