三浦と朴は中退後、大麻の売人のようなことを始めている。客はネットで引っかけた常用者や、歌舞伎町にたむろしている若者たち。仕入れ先までは聞いていないが、やくざの息のかかった人間か、新大久保あたりの不良外国人だろう。
三浦に頼まれていたのは、この定時制の生徒やその周辺に販売ルートを作ってほしいということだった。新規の客がつかまれば、売り上げの何パーセントかをマージンとしてこちらに渡すという。
やばい話だともおいしい話だとも思わなかった。今さら真面目ぶるつもりはない。大麻なら岳人自身、十五、六のときに何度か試したことがある。体がふわふわするようなあの感覚が好きになれず、はまらなかっただけだ。たぶん、常にシラフでいたい質なのだろう。酒もほとんど飲まない。
三浦にはっきり返事をしていない理由は二つ。一つは単に、面倒だから。そしてもう一つは、また同じ轍を踏むのはうんざりだったからだ。売人の片棒をかつぐようになれば、そのうち仕事や学校に行くのもばからしくなるだろう。定時制に入ろうと一念発起したときの自分より、もっと落ちぶれることになる。
一段上がろうと挑戦して失敗し、逆に一段落ちる。岳人の二十一年の人生は、その繰り返しだった。このまま負のスパイラルから抜け出せないでいると、数年後には新宿の裏通りで野たれ死にだ。
だからといって、これ以上ここに通い続ける意味があるとも思えない。
学校なんてものに期待した自分がばかだったのか。それとも、不良品がいくらあがいたところで、無駄なのか――。
岳人は紙切れを四つに破り、たばこと一緒に地面に捨てた。
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プリントの方程式をじっと見て、答えの数字だけを書き殴る。二問目の文章題は、ひと目見てあきらめた。シャーペンを置くと、つい右手が作業着の胸ポケットにいき、たばこを取り出してしまう。通学し始めて一年経つというのに、この癖がまだ抜けない。