教卓の藤竹とまた目が合った。腕組みをして、こちらをじっと見つめてくる。吸わねーよボケ。心の中で毒づきながら、小さく舌打ちをした。
今日は二限目に間に合うように登校した。この「数学Ⅰ」の授業があるからだ。教科の中で、学んでいるという感覚が多少なりとも得られるのは、数学だけだった。だがそれも、二年生になってからはすっかり調子が狂ってしまっている。
藤竹のせいだ。この新しい担任とはなぜか、やたらに目が合う。ふと気づけば、眼鏡越しに観察されている。気があるのでなければ、文句があるのだろう。いずれにせよ、何を考えているのかよくわからないあの眼差しを向けられると、背筋に悪寒が走るのだ。
藤竹の本業は、数学ではなく理科だ。この二年A組では「物理基礎」と「地学基礎」を受け持っている。数学を担当していたのは休職した前の担任、佐藤なのだが、補充の非常勤講師が決まるまでの間、藤竹が数学も教えることになった。少数の教員でやりくりしている定時制ではよくあることらしい。
頬づえをつき、たばこの箱を机で転がす。窓際の一番後ろに座っているので、教室中が見渡せる。クラスに在籍しているのは確か十八人だが、今日来ているのは十四、五人というところか。全員が出席していることはまずないので、まあ平常通りだ。プリントの問題に取り組んでいるやつもいれば、手もつけずにスマホをいじっているやつもいる。
最前列に陣取っているのは、三人の年配組。最年長は七十代くらいのやせこけた男――通称「長老」で、出来はともかく誰より勉強熱心だ。授業中、度々手を挙げて要領を得ない質問を繰り返す。こちらが珍しく集中して授業を聞いているときなどは、後ろから蹴りを入れたくなる。
あとの二人は四、五十代の女。一人はいつも黙々とノートを取っている。もう一人は小太りの東南アジア系で、とにかくよくしゃべる。誰かが「フィリピンパブのママとかじゃね?」と冗談で言い出して、「ママ」というあだ名がついた。