中庭の隅に一本だけ立っている外灯のまわりには、いつものように吸い殻が散乱していた。
構内は当然禁煙なので、岳人のように成人した生徒が喫煙するのも校則違反だ。しかし、たとえ未成年の生徒がたばこを吸っていても、教師たちはそこまで目くじらを立てない。現場を目撃すればさすがに注意はするが、停学などの処分は簡単には下されない。他に問題が多過ぎてそこまで手が回らないというのが、本当のところだろう。
定時制の生徒は年齢もタイプも様々だが、構内にいくつかある喫煙者たちのたまり場には似たような目つきの連中が集まってくる。三浦や朴ともこの中庭で親しくなった。だが、一服しながら悪さ自慢に興じていた同級生たちは、三浦たち同様、大半がすでに学校を去った。
東新宿高校定時制は一学年一クラスで、定員は三十人。とはいえ例年定員割れで、入ってきた一年生も二年生になるまでに六、七割、ひどい年には半分以下に減る。進級できないのではない。学校に馴染めなかったり、嫌気がさしたりして退学するのだ。
授業は週五日、五時四十五分に一限目が始まり、九時ちょうどに四限目が終わる。一日四限しかないので、卒業するのに四年かかる。
岳人は一年生の間、仕事の都合で遅刻することはあっても、学校を休んだことは一日もなかった。一年間何とか踏ん張れば、今度こそ投げ出さずにいれば、少しはよくなるのではないかと思っていた。だがそれはやはり甘かった。毎日きちんと授業を受け、教科書を開き続けてきたというのに、状況は何一つ変わらない。
二年生にはなったものの、もう糸は半分切れている。実際、五月に入ってから一限目の授業に出た日は数えるほどしかないし、登校しても気が乗らなければこうして中庭で過ごしている。
辞めどきか――。作業着の胸ポケットからたばことさっきの紙切れをつまみ出した。一本くわえて火をつけてから、紙切れを開く。下手くそな字だったが、片仮名と数字だけだったのでどうにか読み取れた。〈ヤサイ七五〇〇 リキッド一八〇〇〇〉。大麻の価格表だ。