多くの人が好む牛肉は、牛を飼育するために、人が直接食べる8倍の穀物が消費される、牛のゲップが地球温暖化の原因である、といった話を聞いたことがある人は多いと思われる。肉食の問題を憂えるあまり、特に欧米ですべての動物性食品を避けるヴィーガンが増え、追いかけるように日本でもこうした社会派のヴィーガンが増加。ヴィーガン対応食品や料理も登場し、関連書籍が次々に刊行されている。
食糧不足への対応としては、遺伝子組み換え食品、ゲノム編集による食材開発、培養肉など、化学的な方法を使った食品も次々に開発されており、不安を覚える人たちが多い。遺伝子組み換え食品を開発したアメリカでは、規制がない州がほとんどの一方、ヨーロッパでは輸入を禁じる、日本には大量に入ってきている、といった情報もたくさん報道されている。日本人の食に欠かせないが自給率は1割に満たない大豆に関しては、原料にしている醤油や豆腐のラベルに「遺伝子組み換えでない」と書いた商品がたくさんある。
消費者である私たちにできる対策
大量生産だけでも、わからないことだらけなのに、生物の自然ではありえない改良を施した食品が、私たちの食卓を脅かしている。そしてこうした食品に対しても、信じていいのか悪いのかわからない、大量の危険を訴える情報が発信されている。
こうした、日々の食生活が安全なのかそうでないのか、素人にはわからないことがたくさんある社会で生きる私たちは、不安材料に事欠かない。その中で、味の素論争がくり返し起こることは、ある意味で味の素が不安の象徴だからではないか。
先の西井社長にインタビューした記事によると「MSGは化学合成ではなく、サトウキビのでんぷんを発酵して作っている」という。メーカーから説明があっても、現場を見られない消費者に不安が残るのは仕方ない。他の多くの食品も、現場がわからないから不安になる。本当のところはわからない、ということが論争が頻発する一番大きな要因である。
消費者である私たちにできる対策は、まず眉に唾をつけること。そのうえで、どの情報の信ぴょう性が高いのかを見極める知識を身に着けるか、信頼できる情報源を見つけることだ。インターネットの時代になって、見たい情報だけを信じる傾向はますます高まっている。欲しい言葉を探すのではなく、客観性とエビデンスがあるかどうかを確かめる習慣を、まず私たちは身に着けなければならないのではないだろうか。