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かつてはレシピ本にも登場していたが…「味の素論争」から見えてくる「食の安全性」不信の時代

2023/11/06
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 まず2000年に雪印乳業の工場で、低脂肪乳を原因とする食中毒事件が起きた。翌年には、日本でもBSE(牛海綿状脳症)が発生し、食の製造から流通までのプロセスを確認できるトレーサビリティ・システムが生まれ、食品安全委員会が国に設置された。中国の工場で生産された冷凍食品の食中毒事件、数々の食品偽装事件など、2000年代は食品を巡る事件が多発している。「食の安全・安心」というフレーズが、何度メディアでくり返されたことか。

 このように、食の安全性を疑う人たちが増える時期には、不安になるような時代の変化や現象が背景にあるのではないか。

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 食べものや栄養が、身体に及ぼす影響を過大に評価することを、フード・ファディズムと言う。言葉があるということは、それだけ食に関して疑わしい情報も、そうした情報をうのみにする人たちも多いということだ。

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玉石混交の情報が氾濫

 私たちの周りには、玉石混交の安全性や健康にかかわる情報が溢れている。私が選ぶ番組のターゲット年代が中高年だからかもしれないが、BS放送では健康食品や美容商品のCMがとても多い。CMは、商品を売るために健康不安をあおり、聞き慣れないカタカナの栄養素名を連発し、その成分が効くから体調が改善し健康寿命を延ばせる、などと訴える。

 1991年には、特定保健用食品(トクホ)の制度ができ、許可を受けたさまざまな食品が売られるようになった。国のお墨付きがつくため、そうした商品の宣伝は特に自信ありげに効用を謳って消費者をあおる。

『熱狂と欲望のヘルシーフード 「体にいいもの」にハマる日本人』(畑中三応子、ウェッジ)によれば、平成時代は不況を背景に、「食生活における健康の優先順位が目に見えて上がり、無数の健康食品が次々に現れては消えることを繰り返すようになった」。

 さらに、SDGsという言葉が広まった2017年頃から、地球規模での食糧不足時代の到来を前提に、新しい食品が次々と登場している。その一つが、タンパク源にまつわるもの。