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 16年ぶりに入った基地内部の景観は、以前とあまり変わっていなかった。

 トムから話を聞くために、日本でいうファミレスのような店に入った。まずは記念にと思い、携帯電話で写真を撮ろうとすると慌ててトムに止められる。

「いまは規則が厳しくなっている。勝手に写真を撮ることはできない」

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 なるほど、だからなのか。さきほどから私は、周囲のアメリカ人が好奇のまなざしでこちらを見ているように感じていた。16年前は基地に入ると、遊びにきている日本人男性の姿をよく見かけた。しかし、今回はまったく出会わない。管理が厳しくなったため、基地に日本人が入ってくること自体、珍しくなっているのだろう。

「日本人の女の子は簡単だね」

 日本での暮らしはどうなのか。トムにさっそく質問をぶつけてみる。

「悪くないね。日本人の女の子はキュートだし、楽しいよ」

 トムに言わせれば、基地に勤務する軍人の多くはかなり遊んでいるらしい。アメリカに妻子がいる者でも独身者を装って、青春を謳歌しているという。

「日本人の女の子は簡単だね。耳元でアイラブユーっていえば、すぐに落ちる」

 沖縄では、米軍の兵士に熱をあげる女性を「アメ女」などと呼ぶ。トムによれば、基地にはナンパサークルなるものもあるそうだ。ひとりが口説き、飽きたら捨てる。そこで別のメンバーが相談に乗る振りをして近づく。そうしてサークル内でアメ女を回しているらしい。正直、聞いていて気分がいい話ではない。

 私がムッとしたのに気がついたのか、トムは急に話題を変えた。

「だけど、以前に比べると遊びにくくなったよ。門限も厳しくなったし、車も自由に買うことができないし」

 車の所有は許可制で、ある程度、階級が上がらないと購入することができないという。仮に許可を得たとしても、自由にどこで買ってもいいわけではなく、上司が特定の店に、購入希望者をまとめてつれていくのだそうだ。トムは上司がその中古車屋からキックバックをもらっているのではないかと疑っていた。

アメリカの軍人も車が大好き(写真:筆者撮影)

 その中古車屋はどこにあるのか。場所を聞いて私は納得がいった。トムのいう中古車屋は私もよく知っている。アメリカ人が好みそうな、大きくて燃費の悪い車ばかり揃えた妙な店で、ろくな営業活動もしていないくせに、なぜか潰れないという不思議な店である。なるほど、そういうカラクリがあったのか。

 車の購入代金の一部は“思いやり予算”から出されているらしい。たとえば、カード一括払いで30万円の中古車を購入すると、半額が思いやり予算から助成される仕組みだそうだ。