文春オンライン

「日本は『台湾有事』に耐えられるのか」海上保安庁特殊警備隊「SST」元隊長が明かす“日本領海の危機的リアル”

note

 “不可分の領土”とする台湾に、中国が軍事侵攻する「台湾有事」。大国が絡む悲惨な軍事衝突が起きてしまうのか。

 専門家でも否定する声が多いのも事実だが、日本国民の多くがありえないと思っていたロシアのウクライナ侵攻が起きたのもまた現実だ。しかも中国は2035年までに全長130キロにも及ぶ巨大な橋を台湾海峡に架ける壮大なプロジェクトを発表。習近平国家主席の“台湾への野望”の本気ぶりも窺え、危機が現実となる可能性もある。

 3月29日、台湾の蔡英文総統がNYを訪れたことで、中国と台湾の緊迫した関係が浮き彫りになった。蔡総統の宿泊先には約200人が集まり「台湾がんばれ」などと歓迎した一方、道路を隔てた反対側にはそれ以上の数の人々が「台湾独立反対」などと声をあげたという。

ADVERTISEMENT

台湾の蔡英文総統 ©時事通信

 同日、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は「中国は(蔡英文総統の)立ち寄りを台湾海峡周辺での攻撃的な活動を行う口実にすべきではない」などと中国をけん制した。

 こうした状況を危惧するのが、約20年にわたって日本の海の安全を守ってきた海上保安庁のSST(特殊警備隊)の元隊長・住本祐寿さん(58)だ。住本さんは尖閣諸島や北方領土周辺の海域で、領土・領海を侵犯する数々の不審船などと、熾烈な攻防戦を繰り広げてきた経験を持つ。

 SSTはいわば最前線の国境警備のエキスパート集団トップ。「ウクライナは明日の台湾」ともいわれる現状を、住本さんはどう見ているのか。“今そこにある危機”について話を聞くと、見えてきたのは沿岸警備の命懸けの攻防だった――。

台湾支配をもくろむ中国の狙いは

――台湾有事の危険性が指摘されていますが、台湾の蔡英文総統によるNY立ち寄りで、一層現実味を増したように感じます。実際、起きてしまう可能性はあると思いますか。

住本 可能性は十分にあると思います。経済大国へと成長した中国ですが、実際は厳しい状況に置かれています。世界1位の人口を抱えるなか、バブルも崩壊し、経済が少しずつ低調になっていますから。台湾を支配できれば、中国にとって大きなメリットがあるんです。双方言い分はあるでしょうが、“喧嘩を売っている”のは中国の方ですね。

サンゴの密漁をする中国船を取り締まる海上保安庁 ©時事通信社

――中国側の狙いはどこにあるのでしょうか。

住本 中国としては、これから自国民を支えるため、レアメタルや油など太平洋側に集中する資源を何としても確保したいはず。ただ、世界地図を見れば一目で分かりますが、中国が太平洋に出るルートを完全にフタするように、日本列島は邪魔で仕方がない場所にあるのです。

 唯一問題なく、太平洋側に抜けられるルートは台湾と沖縄の間にあり、ここなら中国船がギリギリ抜けられる広さがあります。中国はこの航路が使えなくなっては困りますから、台湾の“独立”は是が非でも阻止したいというのが本音でしょう。