学生時代からアルツハイマー病研究に関心を抱いていたそうだ。
「患者さんのためになることをしたいという思いがあり、関心があった神経科学で脊髄損傷やパーキンソン病、統合失調症などいろいろな研究対象を検討しました。そのなかでアルツハイマー病の遺伝子の研究に興味を惹かれて読んだのが、(後にレカネマブの開発者となる)ラース・ランフェルト博士の『スウェーデン変異』の論文でした。この遺伝子変異がアルツハイマー病の原因となるアミロイドβを過剰産生するものだと知って『遺伝子は嘘をつかない』と思い、アミロイドβを研究のターゲットにすべきだと考えました」
『これからの数年でアルツハイマーを撲滅します』と宣言
2000年には「アミロイドβを除去する薬を作る」という志を抱いていた、とスコブロンスキー氏は語る。それから23年で、「ドナネマブ」の治験の成功と日米での承認申請にたどりついたことになる。
治験への参加者には、次なる目標を明かしていた。
「その方が望んでいたのは、子どもや孫の時代にはアルツハイマーという病気がなくなっていることでした。自分の病気の治療のためだけではなく、子どもや孫には絶対にアルツハイマーになってほしくないという強い気持ちで参加してくださったのです。私は『任せてください、お孫さんの代まで待たせません』と伝えました。『これからの数年でアルツハイマーを撲滅します』とも宣言しました」
重症化するほど治療が難しい
そして、これからは進行を遅らせるだけでなく、予防が重要になることを強調した。
「3、4年で答えを出せると思いますが、おそらく大半はドナネマブで予防することができると思います。なかには発症する方もいらっしゃるかもしれませんが、症状のある方は治療に入るのが早ければ早いほど薬の効果が高く、症状も抑えられることがわかっています。アルツハイマーの特徴は、アミロイドβの蓄積(老人斑)とタウによる神経原線維変化ですが、もう一つ、ニューロン(脳の神経細胞)の回路の消失があります。そこが死んでしまうと、再生することはできません。重症化するほど治療が難しくなります。ですから、予防が最も重要なのです」
スコブロンスキー氏は、現在治験中の「ドナネマブ」を改良した薬やアミロイドβと並んでアルツハイマー病の原因となるタウを標的とした最新薬についても語った。
スコブロンスキー氏がアルツハイマー病治療の未来を述べたインタビューの全文は、「文藝春秋」2023年12月号、および「文藝春秋 電子版」(11月9日公開)に掲載されている。
【文藝春秋 目次】大座談会 優秀な人材が国を誤るのはなぜなのか 昭和陸軍に見る日本型エリート/永瀬九段 藤井八冠を語る/認知症治療薬はどこまで進化する
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