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――森内九段は1988・89年の早指し新鋭戦決勝で羽生九段を破って2連覇し、さらに89年は全日本プロトーナメントで当時の谷川浩司名人をくだして優勝しています。すでに大舞台を経験していても、初のタイトル戦はまた違うんですね。

森内 全然、違いました。最初の名人戦は、自分が未熟でしたね。封じ手をするのが嫌だから、封じ手時刻の直前に指して回避したこともありました。うまく準備していれば、そんなことをせずにすんだでしょう。

 今年は伊藤匠さん(七段)が竜王戦で藤井さんに挑戦しています。相手が全冠制覇で注目が集まり、自分は初タイトル戦と、当時の私と共通点が多いシリーズです。伊藤さんには大変なことも多いと思いますが、うまくクリアして力を出し切ってほしいなと思います。

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――伊藤七段は永瀬王座に竜王戦挑戦者決定三番勝負で2連勝したんですから、トップレベルの実力です。

森内 ええ。実力には定評があります。序盤は研究が行き届いていますし、中終盤も安定しています。

竜王戦に挑戦した伊藤匠七段(左) ©文藝春秋

羽生九段を一冠にまで追い込んだ「森内三冠」への道

――『超進化論 藤井聡太』では「羽生さんが七冠を達成し、何をモチベーションに戦っていくのかわからなかった」と書いていました。実際にはどう感じましたか。

森内 羽生さんを近くで見ていると、調子のいい時と悪い時があるなと感じていました。羽生さんはモチベーションが弱まっている時期でも、ずっとタイトルを保持してやってこられた。それは本当にすごいことです。

――え、羽生九段にも波があるんですか?

森内 あるでしょうね。顔色を見ていても、いまは気持ちが乗ってないのかなと思うことはありましたし。

――2004年、34歳の羽生九段は王座の一冠まで追い込まれます。それは森内九段自身が次々とタイトルを奪ったからでした。2002年に31歳で初戴冠を果たし、これまでに12期のタイトルを獲得しています。巻き返していった当時を振り返ってください。

森内 丸山(忠久九段)さんから初タイトルの名人を奪取しました。翌年、羽生さんにストレートで負けて失冠しましたが、その直後から調子がよくなって竜王戦、王将戦、そして名人戦で勝利して三冠になれました。いずれも相手は羽生さんでして、竜王戦で初めてタイトル戦で勝つことができてうれしかったのを覚えています。目標を達成でき、そこから伸び伸び指せるようになって、いい結果が続きました。