――森内三冠の誕生とともに、羽生王座は一冠のみとタイトル保持数が逆転しました。また名人戦は森内と羽生との十八世名人レースがあり、森内九段が先に規定(通算5期獲得で永世名人の称号)を満たして獲得しています(羽生は十九世名人)。
森内 一時は三冠になりましたが、その後タイトルを減らして勢いは続きませんでした。永世名人については、羽生さんより先に資格を取得することができ、自分が一番驚いています。
「絶対王者に勝つこと」と「実力を高めて勝つこと」
――『将棋の渡辺くん』(伊奈めぐみ/講談社)を読むと、渡辺明九段が「藤井くんに勝とうと思ってやるか それともナンバー2や3でいいやと思ってやるか それによってやり方が変わる」と発言されています。これは絶対王者に勝つことと、従来通りのやり方で実力を高めて結果を出していくことは、必ずしもイコールではないという趣旨と思われます。森内九段にとって、羽生七冠に勝つことと実力をつけることは同じでしたか?
森内 もちろんまったくのイコールではないと思います。羽生さんは比較的オーソドックスな将棋を指されるので、自分が強くなる延長線上で勝てればと思っていました。あまり変わったことをやろうとは考えていなかったです。それとは対照的に、同期の佐藤康光さん(九段)は自分の色を出していく道を選ばれました。
結局考えても考えなくてもやることは変わらない(笑)
――『将棋世界』2004年6月号・山岸浩史『盤上のトリビア 森内の将棋は羽生のチェスで変わった』では、対羽生戦で盛り返した勝因に「読み筋を減らしたんです」と答えています。その真意をまとめると「序中盤から時間を使って終盤で秒読みに追われるよりも、ある程度割り切って決断よく指して持ち時間を残すようになったから結果を残せるようになった」です。改めて、スタイルを変更するに至ったきっかけなどを教えてください。
森内 形勢をよくしようと考え込んでしまうのは自分の悪い癖だと思います。それに気づくまでは丁寧に指し過ぎて、自分のよさを消していたことも多かったです。
自分は長考派でしたが、どちらかといえば直感でやっていくほうなので、結局考えても考えなくても指し手はあまり変わらないんです(笑)。行き詰ったときに考えることで窮地を脱したことはありますが、考えずに指すほうは勢いがつくこともありますし。
――ちなみに森内九段は多趣味で、将棋以外にもチェスやバックギャモン、ポーカーなどをプレーされています。それは将棋はプラスでしたか?
森内 プラス……なんですかね(笑)。あくまで趣味なのでプラスかどうかを考えてプレーしているわけではありません。チェスはプラスとマイナスの面がありました。将棋とはちょっと違ったコツがあるので、それを将棋に応用できたら面白いかと思います。
――若手のときにAIがあれば、AI研究に没頭したかったですか?