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森内 やってみたかった気持ちはありますが、ない時代とある時代を両方できたのは幅広い経験ができたともいえます。AIを使った争いはシビアですので、昔とは競争の激しさや研究に割く時間が違います。若いころからAIを使っている人たちがどれほど長く戦えるのかは、興味を持っていますね。AIを使った効率的な勉強に比べれば、詰将棋など昔ならではの勉強法は倦厭されてしまうかもしれない。でも、自分で考えないと強くならないというのも将棋の一面だと思います。

©細田忠/文藝春秋

もう一度いい状態に戻して頑張りたい

――森内九段は1987年にデビューしました。若手時代を振り返ると、AIがないどころかパソコンの棋譜データベースがようやく登場したぐらいです。アナログからデジタルに切り替わる過渡期ともいえます。いま振り返って、どういう時代を生きてきたと思いますか。

森内 先輩方を思い出すと、棋士が個性的な時代でしたね。それぞれが自分の型を持っていて、前面に押し出して戦っていました。それは将棋だけではなくて、生き様と盤上のスタイルが直結しているようなところがあったと思います。そういう先輩を見ながら自分たちは進んできて、少し年上の「55年組」や自分たちの世代が序中盤の研究を重視してやり始めました。課題局面を見つけて、序盤・中盤・終盤を掘り下げる。いまでは当たり前ですが、そのはしりです。しかし、個人個人がそれを考えたとしても、AIを使うように客観的に検証することは難しかったです。

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 いま思うと、人間の形勢判断や読みは先入観に引っ張られてしまうところがあって、いまの目から見ると違うところもたくさんあります。でも、そのときはそういうふうにやるしかなく、自分の信じるものを大切にやってきました。昔に考えた手を再検証してみると違っていることはよくありますし、時代が進んでいるのだなと思います。AIがあれば、まったく違ったと思います。

――森内九段自身は、今年で53歳です。昨年は竜王戦で1組に復帰されました。強くなっている実感はありますか。

森内 2019年に理事を辞めた後、将棋でまた頑張ろうと勉強を始めて、最初のほうは向上している実感がありました。しかし、そこで目立った結果を出せませんでした。途中で考え込んでしまって、持ち時間が切迫した終盤でミスをして負けるケースが多かったので、そこが反省点です。現在ではいい状態といえるかわからないが、そのときに勉強したことが役立っているので、もう一度いい状態に戻して頑張りたいです。

――いちばん伸びたと思う時期はいつですか?

森内 10代でしょうね。もちろん、プロになってからも成長できたと思います。