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将棋を最優先する人が勝ち残っていく

――10代や20代に比べて、モチベーションの源泉は変わっていきますか?

森内 変わりますね。若いときは何かを成し遂げたい、タイトルを獲らなければと思っていました。獲れるようになって、気持ちが楽になりましたね。いまはゴールも決まっています(2017年にフリークラスに転出したため、65歳で引退)。藤井さんと戦いたい気持ちはあるんですけど、その時々で気持ちは違ったりするので、自分を奮い立たせないといけないときはありますね。

 AIが出てきて最善の勉強法がわかったとしても、それをやるかどうかはまた別の話です。人間には持ち時間が決まっているので、AI研究に没頭するとほかのことができません。しかし、そこで将棋を最優先する人が勝ち残っていくんだろうなと思います。それは本人の価値観の問題なので、何ともいえません。ただ、勉強している人は強いです。永瀬さんを見ていると、それは特に感じますね。

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羽生九段の将棋連盟会長就任に思うこと

――羽生九段は今年初めにALSOK杯王将戦七番勝負で藤井聡太王将に挑戦しています。結果は4勝2敗で藤井防衛で羽生九段のタイトル通算100期はならなかったですが、途中は2勝2敗のタイと盛り上がり、戦型がバラエティーに富んでオールラウンダーの強みを生かしたシリーズだったように思います。

森内 さすが羽生さんでした。戦型を散らしたのは、それがいちばんいいと判断したのでしょう。ただ、分かれとしては藤井さんがほとんど悪くなっていなかったです。自分から変化しないけど、相手の変化に対応していけるのは、藤井さんが相手からいろいろなものを吸収して実際に攻略しているからですね。

現在は将棋連盟会長を務めている羽生善治九段 ©文藝春秋

――今年は羽生九段が初めて会長に就任しました。『証言 羽生世代』(大川慎太郎/講談社)で、森内九段は「佐藤康光さんが会長として引っ張っていることは感謝している。でも、佐藤康光の将棋は彼にしか指せない。彼が将棋に注力できるような環境を作ってほしい」と話していました。羽生会長については、どういう思いですか。

森内 羽生さんは将棋界で活躍されて、社会的に影響力があり、国民栄誉賞も受賞されました。そういう方が会長になって力を発揮されるのは素晴らしいことです。ただ、いまの将棋連盟の会長職は激務で、プレイヤーとの両立は大変です。

 団体の運営方針にもよりますが、棋士がやったほうがいいこと、経営の経験がある方がやったほうがいいことは両方あるので、うまく力を融合させて機能的な将棋界になればと思っています。

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