停滞の中で熟成されたローカリズムを世界に発信したい
森山 そんななかで、自分が神戸にいて考えることは、ローカルからグローバルに開いていく可能性についてというか、なんていえばいいのかな。2年前に、「きゅうかくうしお」(ダンサー・振付家である辻本知彦などとのユニット)で「醸す」をテーマにした滞在制作をやったんです。いままでずーっと移動して、流動的にものごとを動かして、作品をつくったりという振る舞い方だったのとは対照的に、世の中が完全に分断して、停滞してしまった。だけど、その停滞しているなかに、味噌や醤油や藍染のように、閉じ込められた空間のなかでいろんなものが発酵して、熟成を促している部分があるよねって。
日本の歴史を紐解いても、鎖国したのちに江戸文化が生まれたり、異文化との交流を図らないタイミングで醸成される文化があると考えれば、神戸という場所が持っているローカリズムみたいなものを、内から外に発信する方法がいまだからこそあってもいいんじゃないかなと。
そういう意味でも、これまでの動くという感覚とは、またちょっと違うと思う。
――それは変化ですね。
森山 さっき「多拠点」と言いましたけど、ここに腰を据えるつもりもないんです。自分がたまたま選んだ神戸は自分の地元でもあるから、腰を落ち着けなくてもここは地元で、重要な場所だし、「AiRK」といういまここに存在している建物の運営に関わっている以上は、これから自分の関わり方が多少変わろうが、地元であるという事実とは別の紐付き方をしていくのは間違いないと思う。
まだ1年半くらいしか運営していないひよっこのアーティスト・イン・レジデンスだけど、世間に認知してもらえるよう動いているし、長く続いて欲しいからこそちゃんと次に渡せるようにしたい。僕がやらなくなったら誰もやらないじゃダメだと思うんで、渡せるためのシステムの構築を、あと2年くらいで絶対につくりたい、という気持ちで動いているんですけどね。
――新しいエネルギーの使い方ですね。いままでは、ご自分が制作される側だったから。
森山 でもね、考え方としては変わらないんです。やらないといけない雑務が多すぎることが、いまちょっと大変ではあるけれど、AiRK、AIRというものの運営に携わることと、自分のクリエーションに対する考え方、つまり「人と関わることで何かが生まれる」「それによって自分が動かされる」といったこととは、物語としては全然ずれはないかなあ。