1ページ目から読む
3/4ページ目

言葉巧みに丹羽を思いとどまらせようとした石井

 その後、罪悪感に苛まれ、出頭すると言い出した丹羽を、必死に丸め込んだのも石井だった。法廷ではこれまで、丹羽のスマホのボイスメモに残されていた2022年1月27日の会話内容が紹介されている。

丹羽「もう疲れた。考えるの」

 

石井「じゃあしょうがないよね。身から出たサビ。洋樹が強く投げ飛ばしました、とどめを刺しましたって、知香は言うかもしれないよ。その時に私は違いますって、柿本さんが先に何十回もやった、洋樹のせいじゃないって、言うから。でも、塀の中の1年とこの日常の1年は全然違うからね。(略)密室の中のことだから、私たち3人の意見がすごく重要視されるんだよ。死人に口なしだから。(略)歩夢は死んじゃったんだなって私と知香は目に刻んだ。その気持ちは救わなきゃダメだよ。母親が埋めてるんだよ。土かけてるんだよ」

 出頭に同意するフリもしつつ、言葉巧みに丹羽を思いとどまらせようとする石井。丹羽はボイスメモを残していた理由について、「石井さんの怒り方が更年期障害の女性のようなところがあり、いつか聞かせてあげようと考えた」と話している。

 結局、丹羽は「今の生活を終わらせたくない」と出頭を断念。3人は、床下に“2つの死体”が埋まっている借家で生活を続けたのだ。だが、本庄市から歩夢くんの「安否が確認できない」と相談を受けた埼玉県警がついに動き出す。逮捕される前日の2022年3月4日、県警の事情聴取を終えた2人は、警察が用意したホテルで最後の夜を迎えた。

ADVERTISEMENT

「私たちは歩夢くんが行方不明になっていることにしていて、3月4日の警察の取り調べでもそう話しました。でも、(石井と)2人で話し合って、本当のことをしゃべろうと、腹を括りました」(丹羽)

 翌5日の朝5時頃。丹羽を起こした石井は、そこで初めて本名を告白したという。

まさかの“逮捕当日プロポーズ”

「私、本当は『ナカムラアオイ』じゃなくて『石井陽子』なんだ」

 さらに石井は、本庄の家によく遊びに来ていた「友人の親戚のおばさん」が、本当は自分の母親であることも打ち明けた。混乱しつつも、丹羽は驚くべき行動に出る。その石井の母親に電話をかけ、こう告げたのだ。

「娘さんを私にもらえますか?」

石井陽子被告と丹羽洋樹被告

 この時、丹羽は相手の記入欄が空白のままの婚姻届を用意していた。警察の捜査を受けている真っ最中のプロポーズだった。入籍は実現していない。

「出所したら、2人で飲食店をやろうね」

「私(石井)、刑務所で小説を書くよ」

 高ぶり、酔いしれる2人の脳裏に、絶望と激痛の中で息絶えていった5歳児の姿は浮かばなかったのだろうか。