「119番消防です。火事ですか救急ですか?」

「ま、丸ノコで足を切ったらしい」

 電話口の息遣いから切迫感が伝わってくる。『エマージェンシーコール ~緊急通報指令室~』は、ベルギーの番組フォーマットを買い取り昨年1月から不定期に放送されている番組。実際の119番通報を記録し、オペレーターと通報者(プライバシー保護のため加工・吹き替えはされている)の生々しいやり取りが描かれている。ずっと緊急通報を取る指令室の映像のため画(え)変わりもしないし電話で話す声だけ。ナレーションもない。だが、だからこそ臨場感が物凄い。

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 オペレーターは、足のどの辺りを切ってしまったのか、左右どちらか、など必要な情報を素早く的確に聞き出すと同時に、救急へ出動の依頼を出す。さらに、傷の上を縛っているという通報者に「縛らずに上にタオルを載せてもらってご自身の手で掴んどってもらっていいですか?」と適切な応急手当の方法を伝えるのだ。オペレーターというと補助的な仕事のイメージがあったがとんでもない。実際、新人は配属されないという。ただでさえ見えない現場。加えて通報者は時にパニックになっている。一体何が起こっているのか、見ている僕らにはよくわからない。それはオペレーターも一緒だ。しかし、彼らは豊富な現場経験をもとにそこで起きていることを想像し、相手を落ち着かせながら今、通報者ができることを指示する。それは患者の命を救うためなのはもちろん、たとえそれが叶わなかったとしても、通報者に何もできなかったと後悔させないため。電話口から救急車のサイレンが聞こえてくるまで励まし続けるのだ。

©AFLO

 電話をとっても何も聞こえてこないこともある。またイタズラ電話かと思ってしまうが、オペレーターはそこで切り捨てるわけにはいかない。「お話しできなければ受話器を叩いてください」。これは以前の放送で学んだが、何らかの事情で声を出せない場合の対処法だ。根気強く呼びかけ続けると、「死にたいです」という弱々しい女性の声。やはり昨今は社会的情勢が影響してか精神的な通報が増加しているという。その後は何を聞いても「わかりません」と答えるばかり。通話中も他の隊員が連携して電話番号などから通報者の情報が少しでもわからないか調べている。絶対に思いとどまらせる。必死に説得するオペレーター。その思いが届き……、とならないところが現実の残酷なところ。通報者は突然電話を切ってしまう。その後、彼女がどうなったかは、視聴者はもちろん、オペレーターにもわからない。なんともどかしいことだろう。精神的負担は計り知れない尊い仕事だ。その切迫感に胸が締め付けられる。

INFORMATION

『エマージェンシーコール ~緊急通報指令室~』
NHK総合 特別番組
https://www.nhk.jp/p/emergencycall/ts/M67V8QZ8LQ/