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レジェンド・森内俊之九段が考える戦略「もし私が今20歳だったら、藤井聡太さんとどう戦うか」

レジェンド・森内俊之九段が考える戦略「もし私が今20歳だったら、藤井聡太さんとどう戦うか」

『超進化論 藤井聡太』より #3

2023/11/21
note

 得意戦法のない藤井さんには死角がない。

 藤井さんが対戦相手の場合、たったひとつでもミスをするとそれが致命傷になってしまうことが多い。常に高精度の指し手を目指さないといけない状況は、始まる前から相当なプレッシャーになる。

 もちろん、藤井さんにも疑問手が出ることもある。だが、悪くしても追いつける範囲内であることが多く、たとえ相手にリードを許したとしても、ぴったりと追走してチャンスを待つ。

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 微差の場合、対局者は形勢判断を正確にすることが難しくなる。また形勢判断が正しくできたとしても、指し手の難度が高くなりやすい。わずかな良さを勝ちに結びつけるのは、将棋で最も難しい技術である。まして、藤井さんが対戦相手であれば、追われるほうは、大変なプレッシャーを受けながら指さなければならなくなる。

 その圧力から、ミスが生じることも少なくないだろう。

 藤井さん相手に早い段階で形勢を損なうと、逆転するのはもちろん大変だが、少しリードしていても、その良さを維持するのは容易ではないのだ。

「得意戦法がない」ために資格が見当たらない藤井聡太竜王・名人 ©文藝春秋

「勝てる戦略」を考える(1)

 そうなると、藤井さんと戦える戦略は限られてくる。

 もし私が今20歳くらいだったら、藤井さんとどう戦うだろうか。

 まずはAIの感覚を学んで、藤井さんと同じ方向性で棋力向上を目指すだろう。ただ、それを続けられるかどうかは別の話だ。毎日多くの時間を研究に費やし続けることは簡単ではない。また現時点で考えると、藤井さんに対して主要な戦型で研究量で上回ろうとするような対策は現実的ではない。定跡型を選ぶなら、藤井さんの研究の薄そうな難解な中盤戦に持ち込むことを目指すだろう。

 珍しい作戦を使って意表を突くことも一案だが、藤井さんの意表を突けるような形は評価値が若干悪い上に前例が少ないため、うまく指しこなすことが難しい。これはこれで大変な道である。