いずれにしても、準備の段階で一歩でも先んじる、早い段階で差をつける意識が勝つための条件になってくると思う。
研究勝負ということに関して言うと、藤井さんに負けていないのが永瀬さんだ。
藤井さんの研究仲間で付き合いが深いこともあってか、対策も目を引くものを用意している。タイトル戦でも好勝負を演じていただけに、これからの再戦が楽しみである。
藤井さんと同世代の棋士は徐々に増えているが、ライバルと呼べる存在はまだ出てきていない。藤井さんがどう考えているかは分からないが、好敵手の出現を藤井さん自身が最も望んでいるのかもしれない。現在はAIがあるため研究相手に困ることはない。しかし勝負の場が人間との戦いである以上、実際に盤を挟むことでしか得られない実戦感覚は大事なものだ。私は羽生さんをはじめとした同世代の棋士に刺激を受けた経験があり、年齢の近い仲間がいることは様々な面でプラスになると思っている。
「勝てる戦略」を考える(2)
もう少し藤井さんに勝つための方法、藤井さんに死角がないのかを考えてみたい。
採用する戦法を、藤井さんがあまり指さない形に変えてみるのはどうだろうか。
将棋の戦法は、飛車を初期位置のまま使う居飛車と、中央から左に移して使う振り飛車のふたつに分けられる。現在トップクラスで活躍する棋士は大半が居飛車党で、過去をさかのぼっても振り飛車党は少数派である。藤井猛さんが開発した「藤井システム」が猛威をふるい振り飛車が流行した時期もあるが、現在では、振り飛車はAI評価値が下がるため、指しこなすのが大変な戦法とも言われている。振り飛車党から居飛車党に転身した棋士も多い。振り飛車は、居飛車に押されているのが現状であり、多数派の居飛車は手本も豊富である。永瀬さんや広瀬さんも若手時代は振り飛車を主力にしていたが、現在はすっかり居飛車党に変わっている。