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 この振り飛車で、藤井さんと戦うのはどうだろうか。居飛車党が相居飛車を指す場合と、対振り飛車を指す場合では戦い方がまったく異なる。居飛車と振り飛車の違いについて、振り飛車党の久保利明さんは、「陸上と水泳くらい違う」と語っている。

 久保さんは振り飛車党として二冠保持したことがあり、通算タイトル獲得7期という実績を持つ振り飛車の達人だ。独特の感覚で芸術的な駒さばきを見せることから、“さばきのアーティスト”と称される。振り飛車のさばきは、駒の損得よりも駒の働きを重視する面があり、指しこなすには居飛車にはない感覚が求められる。

 AI評価では序盤で指しにくいと判断されがちな振り飛車だが、手が進んでいくと徐々に評価値が互角に近づいていくケースもあり、本当の戦法の良し悪しについては、実のところ判断がつかない部分がある。

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 居飛車党の目線だと最初は評価値ではプラスになるが、経験豊富な振り飛車党は力が出る展開に持っていくのがうまく、振り飛車との戦いは相居飛車とは違った難しさがある。さらに、上位棋士は居飛車党の割合が高いため、藤井さんも必然的に相居飛車が主戦場になる。そうなれば、振り飛車対策の研究の比重は居飛車に比べて、どうしても下がってくる。

振り飛車は可能性を感じる戦法

 2023年春の叡王戦では、藤井さんに菅井さんが挑戦するシリーズになった。菅井さんはタイトル獲得経験もある振り飛車党を代表する棋士であり、過去には様々な定跡で新手を披露してきた。基本的な技術の高さはもちろん、久保さんと同じように独自の戦い方を持っていることが強みである。このシリーズでは結果的には3勝1敗で藤井さんの防衛となったが、中終盤で振り飛車側がペースを掴む場面も数多く見られた。

 この戦いだけで、藤井さんに振り飛車が有効かは到底判断できない。だが、自分の土俵に持ち込みやすい点、息長く戦い実力を発揮しやすい点から、可能性を感じる戦法である。

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