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宇治の伝統寺院が中華オブジェに乗っ取られた? 中国共産党「浸透工作」の驚愕の実態

2023/12/12

genre : ライフ, 社会, 中国

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侘び寂びを無視した異次元ラソタソの数々

 このイベントのチープさは、写真や動画を一見しただけでも伝わるだろう。まず、入り口の総門前では「ラソタソフェスタ」(原文ママ)と書かれたカタカナのゲートがお出迎え。入って右側の池(放生池)周辺の庭園には、原色の巨大なトンボやテントウムシをかたどった巨大なラソタソが所狭しと置かれている。

 さらに進むと、宗祖・隠元の筆による「萬福寺」額が掲げられた趣ある三門の前に、ハリボテのパンダと原色の巨大な「福」の字のオブジェが並ぶ。

ハリボテのパンダ。夜になると発光する  撮影 Soichiro Koriyama

 三門をくぐって寺院の中心部に入ると、さらに謎のオブジェは増える。ゴシック体フォントの簡体字中国語で「抢红包」(=おこづかいゲット)と書かれたアニメ調のネズミらしき生き物や、境内の見事な枝ぶりの松の間に並べられたオモチャのような原色の松、さらにはお世辞にも上手とは言えない天人が描かれた大量の置物……といった不思議な物体が、寺の庭に統一感なく大量に並んでいるのだ。

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古い伽藍とのミスマッチを⾒せる「抢红包」ネズミ。ちなみに⽇本円も⼈⺠元も「¥」マークは共通である 撮影 Soichiro Koriyama

 日が落ちると、これらのラソタソたちが妖しく輝きはじめ、境内の樹木にはりめぐらされたネオンがでろでろと原色の光を放つ。ネオンの配色は、同じ中国でも北京や上海の中心部ではあまり見かけないもので、城中村(地方出身者が集住する中国版スラム)や地方都市の郊外の鎮(農村部)で見かけるセンスに近い。

 

 萬福寺の三門の前には、禅宗系寺院にはおなじみの「不許葷酒入山門」(肉や魚、ニンニクなど臭味のある野菜と酒の寺内持ち込みを禁ずる)の石碑が立っているが、中国人団体の関係者らしき人たちがそのすぐ側で出店を出し、ビールや肉まんや唐揚げを平気で売っている。仏教の教義や日本の禅寺の習慣を、形だけでも尊重する気さえなさそうに見える。

統⼀戦線⼯作と「◯◯促進会」

 もちろん、日本人の一般的感覚から見て奇妙な光景が生じていたにせよ、中国人信者の素朴な信仰心にもとづく日中交流の結果であれば、批判にはあたらない。イベントの全体的なノリはタイガーバーム・ガーデン(かつて香港にあった怪しい中華庭園、『ジョジョの奇妙な冒険』第3部にも登場)に通じるものがあるが、自文化にとって違和感があるものも受け入れてこそ、異文化交流の意味があるからだ。

⽇が暮れるとものすごいことになる寺の庭。なお、これを⾒るための⼊場料は⼤⼈1500円(事前割引あり) 撮影 Soichiro Koriyama

 ただ、問題は中国側のどのような人たちが、いかなる動機でイベントを仕掛けているかである。結論から言えば、黄檗ランタンフェスティバルには中国共産党のインテリジェンス機関である統一戦線工作部(統戦部)が関係している可能性が非常に高い。

 統戦工作とは、中国共産党が国内外における親中国的な潜在的要素を持つ勢力に「交流」を働きかけ、党の認識を刷り込んだり、中国の国益に見合う言動をとるよう仕向けたりする政治工作のことだ。

「不許葷酒⼊⼭⾨」の⽯碑よりも内側で、唐揚げやアルコールを売る中国⼈男性たち 撮影 Soichiro Koriyama

 特に統戦部は内外の宗教勢力や海外華僑に対する工作を得意とし、海外では「〇〇促進会」という名称の華人組織をフロント団体にして行動することが多い(最も有名なのが、日本を含めた世界各国に支部を置く中国和平統一促進会だ)。

 黄檗ランタンフェスティバルの場合、キーワードになるのが、協賛に名を連ねる「黄檗文化促進会」と「日本福建経済文化促進会」だ。いずれも日本の一般社団法人格を持つ華人団体である。