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 通常、伝統仏教の年配の僧侶は、政治や国際問題に対する知識やリスク感覚が薄い。取材に対応した彼らの様子は、宗門のスキャンダルを隠すために白を切っているわけではなく、事情を理解せぬままに党統戦部や戦狼外交官の「交流」を受け入れてしまったことを強く感じさせた。

萬福寺の庭にて、本物の美しい松の間に置かれた、謎のラソタソ松。もちろん夜になると輝く 撮影 Soichiro Koriyama

 なお、ランタンフェスティバルの開催それ自体は、当初は宇治市などの行政側の打診によるものだったそうだが、中国側がランタンの提供を申し出たため、それを受け入れたのだという。どのようなランタンがやってくるかについては、やはり日本側は詳しく把握していなかった模様だ。

⼤宗派にも中国の⼿が伸びている?

 すでに書いた通り、黄檗宗は信者数が7.3万人程度の小宗派で、単体では日本の世論全体に与える影響はごく小さい。ただし、伝統仏教宗派のなかでも信頼度が高い黄檗宗と友好的な関係を結ぶことで、他の大宗派からも信用されてしまう──。という、意外な影響力も持っている。

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 事実、中国新聞網などの中国側の公開情報によると、林文清が率いる訪問団は2021年以降、曹洞宗の大本山總持寺、同宗の系列校である駒澤大学禅研究所、浄土宗の宗務庁と大本山増上寺、さらに臨済宗各派の主要寺院や新宗教の立正佼成会などを相次いで訪問していることが確認できる。

寺院の庭を占領するラソタソ。なお、奥の急須から出る⽔はネオンになっており、常にピカピカ輝き続けている 撮影 Soichiro Koriyama

 これらの宗派について、中国側から具体的な工作がすでに開始されているのかは不明なものが多い。ただ、信者数が約602万人の浄土宗や363.6万人の曹洞宗といった大宗派が、今後において仮に中国共産党の強い影響下に置かれた場合、日本の社会にとって大きな危険が生じる可能性がある。

中国による対日工作のターゲット

 近年、中国の対日工作は、日本社会におけるウィークポイントである沖縄県に対するものが注目されがちだ。いっぽうで宗教界に対しては、創価学会との友好関係の構築が広く知られているものの、それ以外の団体に対するものはながらく低調だった。だが、習近平時代に入ってこれが転換し始めている。言うまでもなく、宗教界もまた、浸透工作に対する抵抗力が脆弱な日本社会の弱点なのだ。

 筆者(=安田峰俊)が12月15日に刊行する『戦狼中国の対日工作』(文春新書)では、日本に対する海外派出所や戦狼外交官の進出のほか、沖縄や伝統宗教界に対する工作、日本人インフルエンサーを利用した党のプロパガンダ工作などについても、詳しくその実情を追っている。そもそも中国がなぜ、黄檗宗にターゲットを絞ったのかについても詳述している。

 ぜひ、書店で実際に手にとって驚愕の実態をご確認いただきたい。

撮影 Soichiro Koriyama

戦狼中国の対日工作 (文春新書)

安田 峰俊

文藝春秋

2023年12月15日 発売