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すべてが将棋とつながっている…芥川賞作家が「人間、藤井聡太」の深層に迫る!

すべてが将棋とつながっている…芥川賞作家が「人間、藤井聡太」の深層に迫る!

2023/12/08
note

 我が論は次の段階へと進む。藤井は読書好きである。これはかの永世七冠の羽生善治氏にも共通するが、読書と将棋にどのような相関があるのか。読書は能動的な行為である。テレビのようにぼんやり眺めていればいいわけではない。次の一文を、能動的に、想像力を働かせて、自分一人で読み進めていかねばならない。もう諸君もお気づきだろう、将棋もまた次の一手を、能動的に、想像力を働かせて、自分一人で選択していく行為である。これにて読書と将棋の相関も解決である。

私はおもむろに、大山先生の著作を手に取る

 やはり藤井聡太の嗜好は、深層ではすべて将棋と繋がっているのだ。私は我が理論に俄然自信を持つ。が、ここで一気に私の自信を揺るがす特異な事例が見つかる。藤井は、鉄道好きだという。鉄道と将棋、この二つはどのように結びつくのか――、思索するも次の展開は見いだせず、私はこの局面を打開すべく将棋盤の前に座して長考を始めた。必ずや、必ずや、鉄道と将棋にも繋がりがあるはずなのだ。

 私はおもむろに、藤井も親しんだ大山康晴先生の著作を手に取る。そしてある項でページを捲る手が止まった。

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 ――「将棋の駒」は心なき物体だが、八種類のコマの動きと力はみんなちがう。(中略)コマは無心、人間は有情だから、人間の指示どおりにコマは動いていく。『大山流勝負哲学』より。

 この瞬間、私にあの「8一玉」を彷彿させる天才的な閃きが訪れる。

 ――電車は心なき物体だが、動きと速度はみんなちがう。電車は無心、人間は有情だから、人間の指示どおりに電車は動いているではないか!

 目の前の将棋盤の升目と、JRの路線図が重なる。

そうだ、この理論を「高橋システム」と名づけよう

 山手線は各駅停車ゆえ「歩」の動きをし、中央線は快速ゆえに「香車」の動きをする。「歩」である山手線の電車が、「桂馬」の動きなんぞして京浜東北線へ乗り込み、東十条駅へ停車すれば大惨事だ。成程、鉄道は、将棋の升目にも似た路線図の中を、各駅、快速、特急などの動きかたの規則を持った電車が、決まった場所へと停車する。鉄道と将棋、構造的には酷似しているではないか――、さながら直線的な東北新幹線は「飛車」であり、斜めに進む上越新幹線は「角」なのだ!