私はね、小さいときから運動神経が鈍かったの。体育の授業って、大嫌いだった。一九六四年の東京五輪は高校一年生。日本中が熱狂したという一大イベントもフンと無視して開会式の中継すら観なかった。
そんな私がこの冬、三重県立、越山高校の弱小野球部が甲子園を目ざすドラマを欠かさず観ている。
運動部はいつも一回戦で敗退し、偏差値も低い。そんな残念な高校だから、付いた仇名は“ザン高”だ。
そこにたまたま赴任してきた社会科教師の南雲脩司(鈴木亮平)が野球部監督を是非にと懇願される。家庭の問題や他の事情もあるらしく南雲は断る。しかし新たに野球愛みなぎる家庭科教師、山住香南子(黒木華)が赴任し、彼女の熱意に感化され、野球部強化に本気で取り組んでいく。
王道のスポーツ・ドラマだ。おまけに南雲にも山住にもザン高に来る前に、野球を断念せざるを得なかった過去があるらしい。
そして部員の大半は幽霊部員だ。中学時代から将来を嘱望されていたエースの犬塚翔(中沢元紀)も、強豪の星葉高校を目ざしていたのに試験の成績が駄目でザン高に来た挫折組だ。
教え子たちのために全力を尽くす。だけど暑苦しさはなく清々しい教師を演じる鈴木と黒木の演技と表情が絶品。いまは小学校から大学まで腐り切った教師と経営者ばかりだろう。
二人が演じる教師は、私たちにはファンタジイなんだ。だけどキレイ事とか偽善には映らない。演出の塚原あゆ子、プロデューサー新井順子、脚本の奥寺佐渡子という、あの『最愛』を手がけたチームのセンスと力業あってこそだ。
この三人は決していい話には終わらせない。南雲と山住のタッグで部員にもやる気が出てきて、ヨカッタヨカッタと思った直後に、南雲は自分が教員免許を持たない闇教師だと明かす。松本穂香のミワさんじゃないけど、なりすましだ。
南雲の正体を知って、校長はじめ教師も地域の住民も手のひら返しだ。だけど部員たちが、いい奴らでさあ。家が貧しくて伊勢の島から通学してくる控え投手の根室(兵頭功海)が、ホント素直で魅力的だし。
教師役の鈴木亮平と黒木華だけでなく、十人を超す野球部員の誰もがチャーミングなんだ。元・将棋部でゴロも取れない椿谷(伊藤あさひ)が身心とも逞しくなって主将になるしね。
彼らから、来年スター候補生が何人も出るはずだ。さらにバツイチで南雲と結婚した妻(井川遥)の逞しく美しいことといったら。眼鏡を外すとハンサムなんで驚いた根室の姉(山下美月)もタフで優しい。
そして星葉の監督で、南雲の恩師だった賀門(松平健)の存在感が圧倒的で、さすがだ。文句なしの傑作ドラマだ。
INFORMATION
『下剋上球児』
TBS 日 21:00~
https://www.tbs.co.jp/gekokujo_kyuji_tbs/