「母娘」ブームの心残り

 ひとつだけ心残りがあるとすれば、「墓守娘」を出発点とする母娘問題ブームが、キャリア女性たちを中心とした状態にとどまったことです。先述の私の著書に真っ先に反応したのはメディアで働く女性たちだったのですが、裏を返せば、それだけ本を読める人たちの間で広がったということなんですよね。

 その後、母娘問題ブームの中で語られていたことがネットで広がり、当事者が続々と口を開くきっかけとなる「毒母」「毒親」という言葉が登場します。

 多くの人を巻き込むムーブメントが出てきたのは喜ばしいことでしたが、この「毒母」「毒親」という言葉は、母や親から逆に「毒を抜く」言葉だったと思います。なぜならば、「毒」とつけることで、問題が個人化されてしまうからです。

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「毒母」「毒親」と言うと、「へえ、あなたのお母さんはよっぽど変な人だったんだね」と個人の問題になってしまうでしょ。これでは、根本的な解決から遠ざかってしまいます。

 重い母に苦しむ娘が多いのは、家父長制などの家族の仕組み、変わらないままのジェンダー不平等な社会の構造があるからなのです。母親個人の問題ではないと思います。

※信田さよ子さんの連載第2回でも、「なぜ娘は苦しむのか? ACブームを振り返る」と題し、母娘関係について取り上げています。全文は『週刊文春WOMAN2024創刊5周年記念号』でお読みください。

のぶたさよこ/1946年岐阜県生まれ。1995年原宿カウンセリングセンターを設立、現在は顧問。