草彅剛が見せた「大胆さ」
だがその演技力以上に驚くのは、朝ドラという国民的大舞台で思い切って力を抜く演技を見せる草彅の大胆さである。『クソ野郎と美しき世界』『台風家族』『まく子』『青天を衝け』など、多くの日本映画・ドラマを見てきた観客なら、草彅がその気になれば火の玉のようなストレートを投げる強肩の持ち主であることをよく知っている。筆者が2020年に神奈川芸術劇場で白井晃演出の舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』を観劇した時、のしあがる若き独裁者を演じ、舞台を降りて客席を練り歩く細身の草彅に猛獣のような威圧感を感じたものだ。
しかし、朝ドラを見るのは草彅の「最高球速」を知る視聴者ばかりではない。初めて彼の演技を見る視聴者、ドラマ全体ではなくつまみ食いのように彼の演技を見た視聴者には、チェンジアップやナックルボールがただのスローボールに見える者もいる。「なんだ、棒読みじゃないか」「ヘタだけど味のある演技だね」という誤解もネットを中心になくはないのだ。
「物語に奉仕する演技ではなく、俳優として自分がうまく見える演技をしたい」「一般人から軽く見られるような演技はしたくない」草彅はそうした、芸能人という職業に影のようにつきまとうエゴ、恐怖心から解き放たれているように見える。彼が演じる羽鳥善一がそうであるように。
チョナン・カンとして活躍
「2000~10年代に、SMAPの草彅剛さんが韓国を愛して、韓国語を猛勉強して、韓国の番組にまで出ていたことは、ものすごく話題になったんです。日本で一番有名な人が韓国に来てくれているんですから、草彅さんにはぐうの音も出ないですよ」(講談社+αオンライン、2023年11月22日公開)
11月、韓国のバラードの帝王と呼ばれるソン・シギョン氏に横山由希路氏がインタビューした記事が公開された。世界を股にかけるK-POPが憧れの存在である今の中高生世代には、『チョナン・カン』という深夜番組で彼が韓国ロケをしていた20年前の空気が想像もできないかもしれない。
『冬のソナタ』が日本でブームになる2003年よりもさらに前から、彼は韓国語を学び、日本文化が規制されSMAPなど誰も知らない時代の韓国をロケで回り、韓国の人々に愛されていた。日本のスーパースターとしてではなく、あまり上手くない韓国語を話す日本から来た不思議な青年として彼が韓国で愛されたのは、その時代にそんなことをする日本の芸能人がほとんど存在しなかったからだ。