その手術は救済か、殺人か。『外科医パオロ・マッキャリーニ:その歪な愛の姿』(ネットフリックスで配信中)は“史上最大の医療疑獄”とされる衝撃的な事件の真相を暴いた戦慄のドキュメンタリーだ。

 本作は2013年、1人の女性ジャーナリストが当時、革新的な再生医療手術を行い、世界的な注目を集めていた外科医のパオロ・マッキャリーニを取材する話から始まる。この人物がまぁ、非の打ち所のない男なのだ。ジョージ・クルーニー似の甘いマスクで6カ国語を操り、ノーベル生理学・医学賞の選考を行うスウェーデンのカロリンスカ研究所の客員教授として世界中を飛び回っていた。救いを求める患者のため、前例のない手術に挑む医療界のヒーロー。名声は轟き、彼の偉業を讃える報道も世に溢れていた。

「目と目が合い、そして……彼が私に笑いかけたの」

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 取材でパオロと対面した彼女は一瞬で恋に落ちた。彼は多忙な日々でも情熱的なメールを欠かさず、デートでは最高級のホテルの一室にバラを敷き詰めてもてなしてくれた。その年のクリスマスに2人は婚約をする。だが、大晦日は重要な手術があるため会えないという。理由を訊くと、

「僕には要人の患者がいる」

 という。後にそれは米国やロシアの大統領、日本の天皇やローマ教皇だと打ち明けられる。この辺りから彼の言動に怪しさが漂ってくる。研究所の同僚からは秘密裏に告発文がテレビ局に持ち込まれる。

©佐々木健一

「彼(パオロ)は患者を殺し、科学で不正を働いている」

 事実、彼が処置した患者は術後に悉く命を落としていた。数々の疑問をぶつけられてもパオロは顔色一つ変えず、医学の進歩は多くの犠牲の上に成り立つものと言い切る。

 しかし、やがて裏の顔が明るみに出る。人の心はどこまで邪悪になれるのか。否、悪事は決して一人の手によって為される訳ではない。権威やメディアの“お墨付き”が悪人をのさばらせるのである。

INFORMATION

『外科医パオロ・マッキャリーニ:その歪な愛の姿』
https://www.netflix.com/jp/title/81607097