文春オンライン

「手の届かないところにある問題はどうにもならない」件について

酸っぱい葡萄は見ているほかない

2018/03/29
note

 少し日本を離れているあいだ、例の財務省・佐川宣寿さんの証人喚問の様子をテレビで観ていたんですよ。いろんな意見があると思いますが、資料の改竄はよろしくなく、責任者の一人として佐川さんにも大きな責任があるとは考えます。ただ、個人的には憲法38条1項に「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と明記されているのに、野党の立憲民主党や共産党の人たちが「刑事訴追を理由に証言拒否するな」と声を荒げたり、先には自由民主党の変な議員が政権擁護のあまり「財務省は政権をおとしめる」などと素っ頓狂な発言を国会で行って議事録削除と謝罪に追い込まれたり、どうにもしまらない話に発展しております。むしろ、佐川さんは持ち場で頑張って仕事をしていただけであって、うまく国会での答弁と辻褄を合わせるためにどうにかしようとしていたようで、何ともしまらない話ではあります。財務省は責任を感じた職員の自殺者まで出してしまい、組織として人を守れなくてどうするんだろうという、実に不幸な事態に発展したなあと思う次第であります。

証人喚問を受ける佐川宣寿氏 ©杉山拓也/文藝春秋

 で、海外の政治ニュースはもっぱら北朝鮮の金正恩さんが中国・北京の習近平さんを訪問した話題で持ちきりであります。英語圏もロシア語圏も、痛ましい事件や事故、大規模なデモや突然のアメリカのティラーソン国務長官・マクマスター大統領補佐官の解任といったニュースの合間を縫って、この北朝鮮の若き独裁者の動向を興味深げに報じていたのが印象的です。その隠密なはずの電撃訪問がいきなりバレたのも、中国人の鉄道オタクが見慣れない北朝鮮の特別列車を発見し、ネットに掲載したのがきっかけというのがまた現代的であります。

握手する金正恩委員長と習近平国家主席 ©時事通信社

かなり決死の外交

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 先に、アメリカ・トランプ大統領を韓国の特使が訪問しましたが、文在寅大統領、かなり決死の外交を繰り広げて、北朝鮮への“実力行使”へ向け一歩一歩駒を進めるトランプ大統領に対し北朝鮮との対話の実現を取り付けるという大きな前進がありました。そこから一か月経たずして、金正恩さんが中国を電撃訪問し、習近平さんと握手のうえで非核化の方針で合意の発表を行うのですから、まさに南北共にかなりダイナミックで緊張感のある外交が展開されていると言えます。もっとも、北朝鮮の金正恩氏が中国で「朝鮮半島の非核化」を表明するというのは微妙なレトリックであって、単に北朝鮮の非核化ではなく、韓国も含めた朝鮮半島の非核化という意味であるならば、中国もこれを無理に否定する必要もないわけであります。北朝鮮だけでなく中国も警戒している米韓同盟と、韓国に配備されている(今後さらに配備もあり得る)アメリカの核の排除を同時に求める論理ですので、単純な話が韓国で運用されるアメリカの核戦力を排除できないならば、北朝鮮も核兵器を廃棄しないという条件でしかありません。

トランプ大統領と文在寅大統領(white house.govより)