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藤原行成、紫式部のスカウト。藤原道長は時代を作った名キュレーター《『光る君へ』をもっと楽しむためのブックガイド+α》

藤原行成、紫式部のスカウト。藤原道長は時代を作った名キュレーター《『光る君へ』をもっと楽しむためのブックガイド+α》

2024/01/07

source : 文春新書

genre : エンタメ, 歴史, 教育, 読書

note

『光る君へ』を楽しむためのブックガイド+α

●書籍

円地文子訳『源氏物語』(旧新潮文庫)
『源氏物語』の現代語訳と言えば、他にも与謝野晶子、谷崎潤一郎、田辺聖子、瀬戸内寂聴……などの訳がありますが、私が親しんだのは紙の書籍がいまは絶版になってしまっている円地文子さんのものです。

円地文子訳『源氏物語』

角田光代訳『源氏物語 上・中・下』(河出書房新社、現在文庫刊行中)
もちろん、角田光代訳もおススメです。昔の小説を読むと、どこか日本語が古いと感じるように、やはり現代語訳にも賞味期限があるかもしれません。いまの人には断然、角田さんの翻訳がいいと思います。でも、古い日本語に触れたい人もいるでしょうし、それぞれの訳にそれぞれの味わいも、読む人の好みもあると思うので、読み比べてみるのもいいですね。

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角田光代訳『源氏物語 上・中・下』

アーサー・ウェイリー英訳『源氏物語 第1~4巻』(毬矢まりえ+森山恵姉妹訳、左右社)
20世紀初頭、アーサー・ウェイリーによって英訳された『源氏物語』の日本語訳。イギリスもまた宮廷社会であり、構造的な類似性があるわけですが、物語解釈をイギリスに寄せていて、光源氏は「ゲンジ」「シャイニング・プリンス」とカタカナ表記され、男性たちはパンタロンを履いてアラビアのロレンスのような格好をしていて、牛ではなく馬に乗っている。イギリス文学として読むことができて面白いです。

アーサー・ウェイリー英訳『源氏物語 第1~4巻』(毬矢まりえ+森山恵姉妹訳)

山本淳子『紫式部日記 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫)
紫式部が藤原道長の娘であり、一条天皇の后の彰子に仕えた際の回想録。彰子の皇子(おうじ)出産を記録する目的で道長の命で書かれた日記でありながら、『源氏物語』では知りえない作者紫式部自身の声を聞くことができます。読みやすいし、わかりやすいこちらの一冊がまずはおススメ。

山本淳子『紫式部日記 現代語訳付き』

藤原道長『「御堂関白記」 上・中・下』『「権記」 上・中・下』(倉本一宏訳、いずれも講談社学術文庫)
『小右記 ビギナーズ・クラシックス』(藤原実質著、倉本一宏編、角川ソフィア文庫)
『増補版 藤原道長の権力と欲望 紫式部の時代』(文春新書)

いずれも、来年の大河ドラマ『光る君へ』の時代考証を手がけられた倉本一宏さんによるもの。藤原行成の日記『権記(ごんき)』、藤原道長の日記『御堂関白記(みどうかんぱくき)』、藤原実質(さねすけ)の日記『小右記(しょうゆうき)』の現代語訳と手引きが、いずれも読みやすく書かれています。『増補版 藤原道長の権力と欲望』は『御堂関白記』『権記』『小右記』の三つの日記を併せ読みながら、道長の栄華への過程と紫式部の時代を描いていて、さらに理解が深まります。

藤原道長『御堂関白記』(倉本一宏訳)

三枝和子『小説紫式部』(河出文庫)
久しく入手が難しかったものの、『光る君へ』のスタートを前に再刊されて嬉しい1冊。紫式部を主人公にいきいきと書かれた小説。『薬子の京』や『小説清少納言』なども再刊を希望します。

三枝和子『小説紫式部』