「死んだのか?」ケリーが突然消えた理由

 8月末、活発に活動していたケリーが消えた。他の会員たちは「ケリーはどこに行った? 死んだのか?」といった反応を見せた。積極的な運営者だった「砂肝揚げ」というニックネームのユーザーは、「ケリーは突然消えるような奴じゃない」と言って、不穏な空気を感じたのか、自分のルームを削除した。

 私たちはすでにケリー逮捕の連絡を受けていた。加害者たちの間にケリーが逮捕されたのではという不安が広がる様子を見ながら、「いまに見ていなさい。次はあなたたちの番だから」という言葉を飲み込んだ。

 ケリーを取り調べた警察は、主要な加害者たちを逮捕しなくてはならないと言って、秘密を守るよう私たちに頼んできた。

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 ケリーは当初、取り調べで自分の容疑をあくまで否認し、陳述を拒否していたが、証拠が少しずつ明らかになり、とても否認できない状況になると、捜査に積極的に協力し始めたという。ケリーがチャットルームでしきりに強調していたように、「警察に捕まったときの対処法」に従って行動したわけだ。「最初は無条件で否認しろ」「動かぬ証拠を突き付けられたら、警察に積極的に協力して量刑を減らせ」。

(画像=『n番部屋を燃やし尽くせ デジタル性犯罪を追跡した「わたしたち」の記録』より引用)

懲役1年…あまりに軽すぎるケリーの量刑

 捜査に積極的に協力すれば減刑されるという事実を認識し、素直に「対処法」に従ったおかげで、ケリーは2019年11月、一審で懲役1年の判決を受けた。彼は量刑が重すぎるとして控訴したが、検察はケリーが犯行をすべて自白した点などを考慮したとして控訴しなかった。

 ところがn番部屋事件が社会問題化し、デジタル性犯罪は厳罰に処すべきという世論が高まると、検察は二審判決を前にして慌てて裁判のやり直しを求め、追加捜査による訴因変更を試みた。すると翌2020年4月17日、ケリーは控訴を放棄し、懲役1年の刑が確定した。

 数カ月にわたってケリーの犯行を注視してきた私たちは、怒りを抑えられなかった。たった1年の刑だなんて、あまりに軽すぎる。