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ヒロミは「ザ・芸能人」だと思っていたが…初めての『TVタックル』出演で阿川佐和子が「救われた」記憶

『話す力 心をつかむ44のヒント』より#3

2023/12/30

source : 文春新書

genre : エンタメ, 芸能, 社会, メディア, 読書, テレビ・ラジオ

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とにかく目にしたことを口にする

 でもさすがに大人になりました。どうしても一人でお店に入らなければならない状況になったときは、腹をくくります。最後まで一人という場合でなく、同伴者より先に店に到着してしまったときなども、覚悟を決めます。昔は同伴者が来るまで店の外で待っていたものですがね。いつまでも小娘ぶっているわけにもいきません。

 店の人に案内されて席に着くと、メニューに目を落としたり、内装に視線を向けたりして、暇そうなスタッフと目が合えば、話しかけてみます。

「いつオープンしたんですか?」とか「このお店、パスタが評判なんですってね」とか、料理の話題を持ち出せば、アチラはそれが商売ですから、快く説明してくれるでしょう。あるいは、「いつも混んでいるのに、今日は珍しく空いていますね」とか「この絵、面白いですねえ」とか、店内を見渡して気づいたことを聞いてみるということもできます。

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 オープンキッチンのカウンター席に座った場合は、料理を作っている様子を観察するのも楽しい。いろいろと疑問が湧いてきます。

「お米、ざるで研ぐんですか。今度、ウチでもやってみます」

「さすが、みじん切りがお上手! コツ、あります?」

「今年は千葉で太刀魚がいっぱい捕れるんですってね? 秋刀魚はまだ高い?」

 などというニュースネタも有効です。

 よほど気難しい料理人でないかぎり、こちらが興味を持てばいろいろ説明してくれます。料理人との会話が途切れたら、また店の中を静かに見渡して、あら、お隣のテーブルに運ばれた料理はなんだろう、なんて、メニューと見合わせつつ、こっそり想像するのも楽しいものです。

 そう、私はどうも人が食べている料理が気になってしかたがないのです。ジロジロ覗き込むのは失礼になるので、いつも実現するわけではないですが、ときに私が興味を持っている気配を察して、反応してくださるお客様もいらっしゃいます。

「おいしいですよ、このビーフカツ」

「うわ、私も頼んでみます。ありがとうございます」

 そんな会話が成立すれば、一人で見知らぬお店に入っても、グッと気分が盛り上がってきます。

 以前、よく通っていたイタリアンのレストランにて、近くに座っていたご夫婦の召し上がっている料理がおいしそうだったので、私はずうずうしくも、

「それ、なんですか?」

 と、問いかけたことがあります。そのとき私は一人ではなく、女友だちと一緒だったのですが、そのひと言がきっかけですっかり意気投合し、以来、ちょくちょく一緒にご飯を食べたりゴルフへ行ったりする仲になりました。そのご主人は今でもその日のことを振り返っては、

「僕、アガワさんにナンパされたんだよな。料理のこと聞く振りして近づいてきた」

 とおっしゃいますが、そんなわけがない。だって彼は奥様と一緒だったんだから。でも、もし一人で食べているときに、どれほど料理に興味があったからといっても、「そのお料理、おいしそうですね」と声をかけてくる男がいたら、私だって「あ、ナンパだな」と思うでしょうね。そんなわけないって?