1ページ目から読む
4/4ページ目

 でもしかたがない。指定された席につき、収録が始まりました。なんだかわからないけれど、話題がどんどん展開していく。その流れに必死に食らいつき、発言を求められたらなんとか答えてみる。そんな具合に収録が進んでいったとき、私の稚拙極まりない発言に、ヒロミさんが笑いながら耳を傾けてくれて、「そうだね、なるほど」などと、何度も反応してくださったのです。

 なんていい人だ!

 それまで私はヒロミさんに対して、若い頃はやんちゃな暴れん坊、今はバラエティで活躍しているザ・芸能人という印象しか持っていなかったのですが、実は人の話を……、というか、さして役に立ちそうにない私の話なんぞを丁寧に拾って受け止めてくださる優しい人だとわかり、心から感謝の気持を抱きました。

ADVERTISEMENT

ヒロミさん ©文藝春秋

 それだけではない。収録が終わったあとも、ニコニコと新入りの私に手を振って、「お疲れ様でした。面白かったね」なんて声をかけてくださったのです。

 カメラが回っているときに愛想良くしたり声をかけたりするのは、テレビ出演者としては当然のことですが、カメラが止まり、収録が終わったあと、あるいは収録を始める前、共演者との交流があまりないことが、部外者として参加した者にとっては、いたたまれない気持になるものです。

「はい、収録はこれで終了です!」とディレクターから声がかかった途端、今までの笑顔はどこへやら。「お疲れ様」という挨拶もそこそこに、さっさとスタジオを出て行ってしまうタレントさんはいるものです。ライトの下ではあんなにオモシロおかしく喋っていて親切だったのに。急に取り残された気持になってしまいます。だからヒロミさんの優しさが余計、心にしみたのかもしれません。

 それ以来、自分の出ている番組に初めていらっしゃるゲストが居心地悪そうにしている様子を見つけたら、収録前にできるだけ声をかけ、「大丈夫ですよ。バンバン自由に発言してください。基本的に気楽な番組なんですから」と安心させるよう心がけています。できれば収録が終わり、「あんな発言でよかったのかなあ」と事後の不安に陥っているらしきゲストに対しても、「いいお話をありがとうございました」とか「さっきおっしゃってた話、本当なんですか? 面白かったあ」などとフォローをするようにしています。いつもってわけではないけれどね。

 ゲストのアウェイ感をできるだけ取り除いて差し上げるのが、レギュラー出演者の一つの仕事だと思います。

話す力 心をつかむ44のヒント (文春新書 1435)

話す力 心をつかむ44のヒント (文春新書 1435)

阿川 佐和子

文藝春秋

2023年12月15日 発売