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池田さんが「金さん」「銀さん」と呼ぶ、2人の男性の登場だ。

男性なら、3カ月前くらいに羽織と袴を選ぶのが一般的だが、2人がみやび本店を訪れたのは成人式まで1年というタイミングだった。背が高く体の大きい金さん。細くてひょろりとした銀さん。「怖そう」というのが第一印象だった。

店内にある男性用の羽織袴を見せると、もどかしそうに地団駄を踏んだ。

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「全部違います! 金と銀しかないっちゃ! 全身金と全身銀の袴で、成人式に出るのが俺らの夢なんです!」

これには度肝を抜かれた。男性用の羽織袴は黒、グレー、白などの地味な色が中心で、金や銀の羽織袴など聞いたこともない。もちろん店内にあるはずもない。しかし、幼い時から刷り込まれてきた言葉が頭に浮かんだ。

『お客様の要望は、叶えるもの』

衣装がないなら、作ればいい

着物問屋の取引先は10件ほどある。問い合わせれば対応してくれるところがあるかもしれない。

「取りあえず、一度探してみるね、って言ってしまったんです。それで、貸衣装代はいくらだって聞かれたから、通常タイプの羽織袴だと3万9800円ぐらいかなって」

金さん、銀さんが帰った後、池田さんは電話をかけた。

「うちにはないね」
「今まで一度も取り扱ったことないよ」
「黄色とグレーならあるんだけどねえ……」

10戦10敗。どこに聞いても取り扱いがないと言われてしまった。二人には正直に伝えるしかないと思ったが、店に再びやってきた金さん、銀さんを前に、どうしても言えなかった。彼らの手には、それぞれ1万円札が握られていた。

「俺ら、成人式のお金は親やなくて、自分で働いてちゃんと払いたいんよ。少ないけど、これから毎月、支払える分だけ持ってくるけ!」

金さんは建築関係の仕事、銀さんは酒屋のアルバイト。月末になると決まって1万円札や千円札を握りしめてみやびを訪れるようになった。話をすると謙虚で人懐っこい笑顔を見せる2人。「これ、今月分です!」と目を輝かせながらお金を持ってくる彼らを見て、池田さんは腹を括った。