文春オンライン

「北九州の恥」と呼ばれたド派手衣装を生んだ店主のプロ意識 「成人式には不適切な衣装」をなぜ作り続けたのか?

source : 提携メディア

genre : ビジネス, 働き方, 商品, 社会, ライフスタイル

note

「新成人の皆さんにとって、『大人』として出席する初めての一大行事、きちんとした服装で出席するよう心がけましょう」

テレビやインターネット上で揶揄され、苦情の電話を受け続け、さらに市からも自分のデザインした着物を否定される。こうした批判が、成人式が終わるたびに繰り返された。

さすがにやめようとは思わなかったのか。そう尋ねると、池田さんは間髪入れずに答える。

ADVERTISEMENT

「そりゃあつらかったし、傷つきましたよ。でも人によって価値観は違うので、プロとしてどんなご意見でも真摯(しんし)に受け止める覚悟はできています。それにどんなに批判を受けても、また次の新成人が新たなアイデアの種を持ってくるので、楽しくてやめられないんです」

「味方」からの裏切り

外野から何を言われても、新しいアイデアを形にする楽しさと新成人からの支持がある限り、池田さんはやめる気にはならなかった。しかし一度だけ、心折れかけたことがあるという。それは、信じて一生懸命尽くしたはずの、新成人からの裏切りだった。

みやびに来る新成人は、着物のレンタル料を自分の収入から分割で支払うケースが多い。しかし、若く、収入が不安定な新成人が支払う以上、時には分割払いが止まってしまうこともある。

客商売だからへんな噂は避けたいと、何年かは泣き寝入りしていたものの、そのうち「みやびは払わなくても大丈夫」という噂まで流れ始めた。のちに全国紙でインタビューに答えた未払い成人の一人は、先輩が支払っていないことを知り、最初から支払いを逃れるつもりで、申込書に前住所を書いていたと語った。

「……お客さまから裏切られたときは、本当につらかったですね」

未払い額はどんどん膨らみ、2017年には50人を超え、店の経営を圧迫するまでになる。未払いになった人はこれまでに約200人いたが、申込書に書いてもらった連絡先に確認するとすぐに振り込んでくれる人もいた。しかし音信不通になるケースも少なからずあった。