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「北九州の恥」と呼ばれたド派手衣装を生んだ店主のプロ意識 「成人式には不適切な衣装」をなぜ作り続けたのか?

source : 提携メディア

genre : ビジネス, 働き方, 商品, 社会, ライフスタイル

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とうとう2019年3月、みやびはおよそ30人に対し、未払い金返還請求訴訟を小倉簡易裁判所に提起した。総額およそ900万円、訴額は一人あたり6万8000円~139万円程度にのぼる。苦渋の決断だった。

99%の子たちはちゃんと支払ってくれるのに…

これに新聞やテレビが食いついた。地方の貸衣装店の小さな訴訟であるにもかかわらず、「ド派手成人衣装代未払い事件」は、全国紙や全国ニュース、ワイドショーでも大きく取り上げられ、池田さんはマスコミ対応に追われた。

「今考えれば、報じやすかったのかもしれません。確かに見た目はド派手な衣装を着た北九州のヤンキーです。それと衣装代の踏み倒しって、結びつけやすいから。でも、99%の子たちはちゃんと支払ってくれるんです。ほぼ全員が成人式のために一生懸命働いて、自分で稼いだお金できっちり支払いをしてくれているんです。それを一括りにして悪いイメージを広げるべきじゃない」

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信じていた客からの裏切りと、「ヤンキーの未払い」を大きく報じるマスコミ。小さく震え、かすれた声から、池田さんの悔しさがにじみ出ていた。このとき初めて、もうこの店を続けられないかもしれないと感じたという。

しかし、新成人からの裏切りに傷ついた池田さんを支えたのは、やはり新成人だった。

「払わんやったら、訴えられるんやろ?」
「そんなん、払わんのが悪いよね」
「あいつはちゃんと払ったん? 心配っちゃ」

新成人たちは訴訟事件など笑い話にして、変わらずみやびに集まった。自分の成人式に突き進む彼らの前向きなエネルギーが、池田さんの救いとなった。

運命を変えた一通のメール

未払い問題でマスコミ対応に追われる直前、池田さんの運命を大きく変える出来事が起きた。ことの始まりは2018年。1通のメールからだった。

「ニューヨークの投資家・スティーブン・グローバスさんが、ブロードウェイストリートのど真ん中の持ちビルに、和室を作ったそうなんです。そこで日本文化を紹介したいから着物を貸してほしいって、日本の代理人から連絡が来ました。他にも何店舗か依頼しているみたいだし、まあいいですよって、男性物の羽織袴を3着貸し出したんです」
「その時は、ただ大盛況だったってご連絡をいただいて、よかったですねで終わっていたんです。みやびの着物だけが抜群に引きが強かったって言っていただいて」