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未払い訴訟騒動に巻き込まれた池田さんは知る由もなかった。その裏で、彼女をニューヨークへ導く運命の歯車ががっちりと噛み合い、音を立てて動き始めていたことを――。

「ニューヨークで個展をしませんか?」

新型コロナウイルスの猛威が一段落した2022年3月。再びみやびに同じエージェントから1通のメールが届く。

「今年の秋に、ニューヨークで個展をしませんか? 池田さんをデザイナーとして、ニューヨークにご招待します」

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その連絡をもらった時は、詐欺だとしか思えなかった。それでも池田さんの戸惑いをよそに話はトントン拍子に進み、9月、彼女は20着の着物と5人のスタッフとともに、ニューヨークに降り立っていた。初めてこの地を踏んでから30年が経過していた。

マンハッタンのど真ん中、ブロードウェイストリートにあるビルを改造した和室に、みやびの着物だけがずらりと並べられた。

ニューヨークでは、特にセレブリティの間で日本文化の人気が高い。ファッション関係者、ミュージシャン、オペラ歌手、大学教授や音楽家など、多くのセレブがみやびの着物に喝采を送り、池田さんの話に耳を傾けた。言葉の壁があるにもかかわらず、池田さんはニューヨークという街の価値観に体が馴染むように感じた。

「もしかして、ここが自分の生きていく土地だったのかもしれないって」

もしも30年前、ニューヨークに留まっていたら――。

「雅さんはニューヨーク向きですよ! 次は何をするんですか?」

個展で仲良くなった日本人バレエダンサーのShokoさん(玉井翔子)に聞かれ、池田さんは戸惑った。Shokoさんはメトロポリタンオペラ劇場のキャストであり、自分でも20人ほどのバレエグループを率いている。14歳から日本を出て、ニューヨークで夢を叶えた30代の彼女が、同じ温度で50代の池田さんに芸術への情熱を求めてきたからだ。

この個展は、一生に一度の思い出だと思っていた。次はない。しかし池田さんの予想に反して、「みやびの着物」はニューヨークで受け入れられていく。